蝶と華1 | ナノ


蝶と華(1/4頁)


※メフィ+雪×燐のさんぴー有り






「あ…志摩だ…」

「…ほんとだ。目立つね、あの髪。」

雪男と中庭で弁当を食べていると、ふわふわとしたほとんどピンクに近い茶髪が遠くで揺れていた。

「あ、」

志摩が通るたび、カラコロと可愛らしい女の子の笑い声が聞こえてくる。

ひらひらと手を振って、また違う女の子に話しかけて。

まるで、ちょうちょみたいだと思った。

花から花へと飛んで蜜を食べて。花も花粉を運んでくれるちょうちょの為に美しく咲き誇る。


俺は、そんな蝶が止まってくれる花にはなれない。


ふと思って、ぱぱっとかき消すように手を動かした。

「何してるの、兄さん」

「いやっ、別に!何か、ほこり?が…」

こんなのまるで、俺が志摩のこと好きみたいじゃねーか。


また胸が苦しくなった。

最近、志摩を見ると心臓のあたりがズキズキする。

「ねぇ、兄さん。」

「んー…?」


「僕はずっと兄さんの傍に居るよ。」


ほわっと、さっきまで痛かった胸が温かいので包まれる感覚がした。

雪男はたまに、こんなことをいきなり言ったりする。

「ははっ、いきなりどうしたんだよ、雪男。俺もずっと雪男の傍に居るぞ。」


でも、本当に雪男が居てよかった。

悪魔になっても、兄弟という切れない絆がある限り、独りじゃないから。


こんなずるい考え、兄貴として情けない気もするけれど。
悪魔として覚醒してからずっと孤独な気がして、みんな傍に居てくれるのに、誰も居なくなってしまうような感覚がずっとしてて。

そんな俺の気持ちをまるで読むように、雪男が俺の頭を撫ぜた。

「明日も明後日も。ずっと先の未来も、兄さんの手料理が食べたいよ。」

「…へへ。オフクロの味みてーなモンだからな!」


残りの弁当を食べきってしまうと、眠気に誘われるままに瞼を閉じる。

暖かい日差しの中、雪男が何か呟いた気がするけど、聞き返せないまま眠りへ落ちていった。






*






「ずっと二人で居ようよ…」

寝癖のついたままの柔らかい髪を撫でながら、小さく呟く。


そっと広い中庭の遠くを盗み見る。すぐに見つけられる奇抜な髪色の少年は、女の子に囲まれて笑っていた。

日増しに彼に惹かれていく兄さんを見ているのが辛い。

そして、怖い。


女の子が好きだと豪語する彼が、いつの日か兄さんに惹かれる日が来るんじゃないかって。

(気付かないでよ…)

誰も兄さんに関わろうとしなかった中学時代、僕は心のどこかで安心してたんだ。祓魔塾に入って『友達』ができた兄さんに、よかったね、なんて言いながら僕はずっとこうやって怯えている。


どろどろの感情が支配する僕の脳に、予鈴のチャイムが届いた。

すうっと冷静さを取り戻して、小さく兄さんの肩を揺さぶる。

「…兄さん、起きて。戻らなきゃ。」

「ん、んー…、う。あれ、寝てた…?」

子供みたいに目を擦りながら欠伸をする兄さんの手をゆっくりと引いて、中庭を出る。

「じゃあ、また後でね。」

「おう。今日任務あんのか?」

「うん、5限で早退して行くよ。遅くはならないと思うけど。」

「そっか、じゃあ晩飯一緒に食えるな!」

――作って待ってる。

そんな甘い言葉がどれほど僕に愉悦をもたらすかを兄さんは知らない。







校舎が違うため兄さんと分かれて歩きだした僕の前に、ピンク地に白の水玉のスカーフをした犬がひょこりと現れた。

「…フェレス卿。何ですか、兄さんならもう教室に戻りましたけど。」

そう声をかけると、犬は ぽふんっという音と白い煙と共に、ピエロのような格好の長身の男へと変化した。

「外で変化しないで下さいっ」

「大丈夫ですよ、人気がないのは確認済みです☆」

飄々としていて、何を考えているのか掴めないフェレス卿の空気が苦手だった。

「今日は貴方にお話しがあって。」

「生憎、授業が始まりますので。」

フェレス卿の横を通り過ぎようとすると、

「確かー…5限目の授業は体育でしたか☆…5限で早退する貴方が元気に走り回るのもどうかと思いますが?」

思わず舌打ちしそうになる。走り回って体調を崩したことにするつもりだったのだと反論しようと思ったものの、どうせふわふわとかわされるのだと思って口を噤んだ。

「それで?僕に用とは。」

「理事長室にでも来て下さい☆おいしい紅茶を用意していますよ。…あぁ…体育の先生には、体調が悪そうだったので早退させたと伝えてあります」

このやりとりまで彼の思惑通りなことにまた苛立ちが増したが、黙って理事長室へと向かった。



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