◎ 恋と牽制(1/4頁)
※4頁目に勝→燐要素含みます。
若先生が任務でおらへんやて…?
「こんなチャンス逃すわけにはいかんやろぉぉおおお!!!」
「うおっ!なんだよ志摩びっくりすんだろ」
奥村くんと二人きりの塾の教室の中。
肩耳を塞ぎながら、ぴんっと尻尾を逆立たせて吃驚している奥村くんに、できるだけ普通の笑顔で答える。
「いやっ、明日…スキヤキパーティとかせぇへん?」
あかん!男志摩廉造、今のはあかん!なんか他にあるやろ!
奥村くんの好きなもの=スキヤキて安易すぎるやろ!
自分でツッコミながらも、あまりに慌てすぎてろくな案が浮かばなかった自分に凹む。
ちらりと奥村くんの方を見れば、キラキラと目を輝かせて俺の顔を覗きこんできた。
「する!!!」
ぶんぶんと激しく上下左右に揺れる尻尾から見て、本気で大喜びしてくれているらしい。
よっしゃ!と思ったのもつかぬ間。
「じゃあ皆誘おうぜ!」
しまったぁぁああ!!
そうやんな!スキヤキって、パーティって、普通二人ちゃうよな!!
奥村くんと晩ご飯食べれることすら少ない俺にとっては嬉しいんやけど(いつもは若先生の飯を作りに帰るから。ギリッ)、その滅多にないチャンスを皆でわいわい過ごして終わりやなんて…!!
「しま…?」
頭を抱えて凹んでいた俺に、不安そうな奥村くんの声が降ってくる。
「い、いや〜今な、買い物の分担考えててん!」
「俺、買い物も料理も全部するから、大丈夫!へへっ」
うん。なんや嬉しそうな奥村くん見てたら、一緒に居れるんやったらええや、って思う。
俺、平和!今なら煩悩100個くらい消えてる!ちょっと残ってるけど!
「奥村くん、明日、一緒に買い物行こう?」
「うん…!!あした、楽しみだっ!」
せめて新婚さんの買い物気分は味わおう!
***
「さっぶ!風つめたっ!」
「雪、降るかなあ?」
「こんだけ寒かったら降るかもせんなぁ〜」
空を見上げ、マフラーに顔をうずめながら奥村くんと手を繋ぐ。
二人の両手には、大きな袋。
コンビニとかと違って、ネギが飛び出てるスーパーの袋とか、めっちゃ新婚さんやありませんかコレ!
そんな小さな幸せを噛みしめていたら、鼻の頭を赤くして白い息を吐きながら、奥村くんがぎゅうっと繋いだ手に力を込めて笑った。
「しあわせだ、俺。」
「うん、俺もしあわせや。」
奥村くんも幸せだと思ってくれていることが、尚更しあわせ。
いろいろあったけど、こうして穏やかな日々が続いてくれればいいと思う。
…まぁ若先生は穏やかにしてくれんけど!
あのブラコン先生は未だに奥村くんと昼飯を一緒に食ってるだけで撃ち殺されそうな眼光で睨んでくる。
ま、そんなんに負けへんけどな!
そんなことを考えながら歩いていると、旧寮が見えてきた。
相変わらずホラーに出てきそうな外観だけれど、キッチンのある場所は温かい明かりが付いている。
「「ただいまー!」」
重なった俺達の声に、「おかえり」と仲間の声が複数重なった。
「燐!私も作るの手伝うよ!」
「アンタ邪魔になるだけだからやめときなさいよ。」
愛情を含んだ出雲ちゃんの毒舌に、杜山さんが真っ赤な顔で頬を膨らませる。
てきぱきと食材を出して野菜を切っていく奥村くんに、「僕の嫁です」と宣言したくなる。
いや、若先生と坊と子猫さんは知ってるし、出雲ちゃんはなんとなく気付いてそうな雰囲気なんやけど…。
「皆座っててくれよ!割り下作ってあるからすぐできるからさ!あ、志摩、そこの棚にカセットコンロあるから出しといて?」
きた!お父さん的役割ね、コレ!
「まかせて!」
二人きりで過ごせへんかったんはちょっと残念やけど、やっぱり奥村くんが居るだけで幸せやと思った。
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