07 Etude-1 | ナノ


Etude(1/5頁)

※原作なら色々起こっている時期ですが、普通に学園と塾の生活が続いていると仮定して進めて行きます。

金燐です!










夕方とは言え、まだ日の落ちていない真夏の屋上なんて、誰も近寄ることがない。

ましてや、今日は夏休みに入って1週間目。

朝は部活動で騒がしかったグラウンドも今は閑散としている。


俺達 祓魔塾生も、夏休みは朝の9時から夕方の5時までみっちり塾がある。

学校は必要のない授業だと思ってるから、6時間中5時間は睡眠に充てていても問題ないのだけれど、塾の場合はそうもいかない。

実技や実験が半分、残りの講義授業も潔く睡眠に費やすわけにもいかず、聞かなくちゃと思っていてもうつらうつらしてしまう。


じと、と汗がまとわりつくシャツの裾を掴んでぱたぱたと風を送り入れた。

ぱちりと携帯を開けて画面を見る。

着信履歴も、受信メールも、ない。

「…知ってる。」

ぽつりと呟く。


昨日から5日間、ヴァチカン本部からお偉いさんが来て、日本支部で祓魔師認定本試験の打ち合わせやらがあるらしく、塾が休みになった。

それと、生徒にとっては本試験の追い込みの前に、実家に帰省する時間を与えるためでもあるらしい。


勝呂と子猫丸は墓参りに行くのだと、昨日 京都へ発った。

――そして、志摩も。

「…分かってる。」

志摩は、あの彼女と一緒に京都へ旅行なんだって。

学校での噂って、走ってくみたいに早く届いてくる。

聞きたくないことも。


昨日も今日も、朝から巨大化したクロと修行して、昼寝をして、また修行して。

それから今日は なんとなく、学校へ来てみた。


ぽつん、と音が鳴りそうなくらいに孤独だった。

蝉の声は煩いほどに響いていたけれど。


ぎゅ、と心臓の辺りを押さえる。

一人なんて、慣れてるはずなのに。

慣れてた、はずなのに。


自分がとても弱くなった気がした。


ツン、と目頭が熱くなった瞬間、携帯の着信音が屋上に鳴り響いた。

「―――!」

急いでポケットから出して、ディスプレイを確認する。

「、え?」画面に表示されていたのは、11桁の数字。

雪男でも、――志摩でもない。


「…は、はい…」

「あ、燐くんー?」

どくんっと心臓が跳ねた。

志摩と同じ声質で、志摩よりも少し低い声。

「きんぞ、さん…?」

「あたりー。いま何してん?」

ガヤガヤと賑やかな音が金造さんの奥から聞こえる。

「いえ、何も…して、ないです。」

「ふーん。今どこおんの?」

「えと、学校の、屋上に…」

そこまで言ったところで、ケラケラと笑う声が聞こえた。

「何で学校なんか居るん。なー、俺いま正十字駅やねん。迎えきて。」

「…へ…???」

唐突すぎる強引なお願いに、俺は戸惑ったまま変な声が出る。

そんな俺を無視するように、ブチリと通話は切れた。

「え…え…!?」

プー、プー、プー、と無機質な音を鳴らし続ける携帯を耳に当てたまま、俺は暫く呆然としていた。

冗談、だろうか。

悪戯電話かもしれない。

でも、本当に金造さんが来てるのかもしれない。

声は聞き間違えるはずがないから。1か月ほど前のできごとを思い出して、背中に冷たいものが走った。

志摩と、金造さんと。

「、っ」

真夏なのに、ふるりと体が震えた。

『迎えきて。』

優しい声音だったのに、なぜかどうしても守らなきゃいけない命令みたいに聞こえる。

俺は自分でもよくわからないままに、屋上を飛び出していた。



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