◎ ことのは(2/2頁)
冷たく見える言動と温かい心を持つ、勝呂を好きになった。
きっと、好きだと気付く前は、そっけない言葉も気にならなかったのに。
俺が勝手に怒ってるんだ。そんなの、分かってる。
それでも、勝呂を好きになって、勝呂も俺のことを好きになってくれて、そして勝呂から好きだと伝えられて。
『友達』から『恋人』に変わって、それならちょっとくらい俺にだけ優しくしてくれてもいいんじゃねーかって。
なのに、俺だけが勝呂を好きみたいで悲しかった。
悲しくて、苦しくて、それがイライラに変わって。
「おく、むらっ…!!」
そうだ。名前だってそう。
二人の時でも、名前を呼んでくれない。
変なプライドが邪魔をして、名前を呼んでくれるまで、俺が名前を呼べないこと、分かってるくせに。
「止まれ!奥村!」
勝呂の声が少し離れた後ろで聞こえる。
丁度部活の終わった時間、放課後にしては少し人が増える時間。
正十字学園の中庭を突っ切って、どこに向かうわけでもなく、ただ走った。
止まってしまったら、ぎりぎり留めている涙が零れ落ちそうだったから。
「…っ燐!!!」
低くて鋭い音が、俺の鼓膜を貫いた。
思わず、走っていた足が止まる。
力強い手に引かれてよろけた体は、ドンッと広くて厚い胸に受け止められた。
背中に回された腕に、ぎゅうっと苦しいくらいに締めつけられる。
「すぐ、ろ…っ」
ザワッと辺りがざわめきだす。
その瞬間、今居る場所を思い出して冷や汗が出た。
「勝呂っ、ここ…っ」
「大好きや!燐!」
ざわめきが、一瞬で消える。
まるで勝呂の声だけを拾うためみたいに。
「すまん。お前のためや思いながら、俺がラクしとったんや。お前を、泣かしてまで…。すまん。」
勝手にイラついて、勝手に飛び出して、勝手に泣いて。
そんな俺を責めてもいいはずなのに、勝呂は誠実な声でそう言ってくれる。
俺もごめん、なんて逆に陳腐な気がして、唇を噛む。
応えたいのに言葉が見つからなくて、またじわりと涙が滲んだ。
ぽたぽたと落ちていく涙は、勝呂のシャツの肩口を濡らしていく。
「すまん、ほんまに。お前の笑うた顔が一番好きや。せやのに、泣かしてもうた。」
「しゃーねーな!許してやるよっ…!」
ずびっと鼻をすすりながら、目をこすってそう答えると、勝呂の指が俺の目尻を拭った。
「もう、泣かしたりせん。ほんま、「ばぁーかっ!これは嬉し泣きだっつの!」
また『すまん』って謝ろうとした勝呂の言葉を遮って強がって見せれば、勝呂がくしゃりと笑った。
「そうや、ずっと笑ってたらええねん。…俺の、傍で。」
後日談。
「…最近、兄さんの周り、女の子が多いよね。」
「え?そーか?」
「坊と奥村くんの親衛隊とかゆうんが出来たらしいで。俺のクラスの子いわく。」
「…なんで『坊と奥村くん』が一括りですのん?」
「さぁ…俺も聞こ思てんけど、男には教えられん、て言われてんもん。」
「やっぱり…コレが原因かな…」
「ほらっ、りゅーじ、胡麻和え好きだろ!もっと食っていいぞ。」
「あほう。これ以上食うたら燐の分無くなるやろが。」
「俺はいくらでも自分作れるからいーんだよ!」
「俺もまた明日作ってもらうし、えぇねん。」
「…付き合うんは勝手にしたらえぇけど、毎回これ見せられるんもなー」
「坊…奥村君と居る時は煩悩だらけになってはりますね…」
「ほんと、これから夏が来るのに暑苦しい光景は見せないでよね。」
もうすぐ夏が訪れる、少し暑い春の晴れた日のこと。
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スノウ様に捧ぐ。
萌えセリフ、萌えシチュ…リクエストありがとうございました!
言葉がなければ、やっぱりうまく伝わらない。そんな感じで(*^o^*)
往来での再告白、青春ですね〜!
二人は腐女子が守ってくれるはず(笑)
後日談の会話文は糖度高めにしてみましたっ!
スノウ様、リクエストありがとうございました!!!
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