◎ ことのは(1/2頁)
友達と恋人の違いって、何だろう。
いや、違うことなんて、分かってるんだ。
(雪男と志摩と子猫丸も一緒だけど)お昼御飯を一緒に食べたりするようになって、だんだんと一緒に過ごす時間が増えて。
勝呂の態度が変わって、時々、手を繋いだり。
それでも。
「ぅはははは!!うそやん!坊、奥村くんお小遣い月2千円やねんて!」
「はぁ?どーでもええわ、そんなん。」
「なんやねん、坊。ノリ悪いなぁ」
むっかー!!
それくらい、知ってるって言ったっていいじゃんか。
「どうしたん、奥村くん?」
「別になんでもない…」
分かってる。いくら俺だって分かってる。
俺達のことは秘密にしなきゃいけないってことくらい。
分かってる。
それでも。
「奥村、起きぃ。授業終わったで。…奥村?」
のそりと起きた奥村は、いつもの寝ぼけ眼ではなく、タヌキ寝入りだったのか、ぷくっと膨れた顔で顔を上げた。
「どうしたんや。」
「…何が」
あからさまに機嫌の悪いその反応に、そっと頭に手を伸ばすと、優しく髪を撫でる。
そうすれば、ふくれっ面を少し和らげて、まるで猫のように気持ちよさげに目を細める。
手を止めると、また唇を尖らせて、大きな目で俺を睨み上げてきた。
深い、けれど澄んだその蒼は、思わず見入ってしまうほどに神秘的で、睨まれてるなんてこと忘れそうで。
「教えてくれ、何で機嫌悪いんや。」
「別に…、」
何か言いたげで、けれど黙り込むその姿に、僅かに苛立ちが募る。
志摩や若先生や杜山さん達とはあんなに楽しそうに喋ってるくせに。
「なんやねん、はっきり言うたらええやろ。」
「だから何でもねぇって言ってんだろ!」
「はぁ!?さっきから何やねん!」
売り言葉に買い言葉だってことは分かっていても、止められなかった。
恋人という関係になってから、1週間。
『恋人』だということを意識してしまえば上手く喋ることすらできなくなって、独占欲だけが膨らんで勝手に苛立ってしまう。
ただ、一番傍に居たいだけなのに。
ただ、隣で歩いていきたいだけなのに。
こんなことなら『友達』で居るほうがよかったんじゃないかとさえ、思ってしまう。
「お、俺のこと、は…恥ずかしいんだろっ…!」
バンッ、と大きな音を立てて机に手をついた奥村は、今にも泣きだしそうな表情で。
何、ゆうてんねん。何でお前が泣きそうになっとんねや。さっきまでキレとったくせに――
「話しかけたってそっけない返事しかしねーしっ。そんなにバレたくねぇなら、最初からっ…期待させんな!!」
「な…っ、」
唖然とする。
怒っていた理由は全て自分にあったことにようやく気付いた俺は、去ろうとした奥村の腕を掴む。
『バレたくない』なんて思ったことなんてなかった。
ただ、学園で浮いた存在の奥村に、これ以上知らない人間から侮蔑の声なんて聞かせたくなかった。
塾生の皆には、いずれきちんと話そうとは思っていたものの、今の自分の状況じゃ緊張して空回りするだけだと、先送りしてきた。
それがこんなちぐはぐな結果を生んだ。
何でわからんのや、なんて思ってしまう。
けれど自分の言動を思い返せば不安にさせてしまうのも無理はなかった。
「何も、いわねーんだ。やっぱ、俺の、こと…っ」
ひく、としゃくりあげるような声が聞こえた瞬間、奥村は走り出してしまった。
「奥村っ!!!」
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