崩壊の音(2/5頁)
感情を塞き止めていた壁が、崩壊する音を聞いた。
ずっと、ずっと押し殺していた感情が、零れていくのを感じた。
『…とはいえ、奥村先生もサタンの息子なんですよね。やっぱあれですかね。サタンの息子だからこそ、パラディン…藤本先生のマネごとして二つも称号とったんですかね。7つの時から兄のために自分の人生捨てて…できませんよねぇ、ふつう。何を糧にして頑張れるんですかね。凄いですけど、僕には理解できないなー。』
悪意の無い声だった。別に、同僚にどう思われてようが構わない。サタンの息子だと言われようが辛くも悲しくも虚しくもなかったし、理解されようとも思っていない。
けれど、彼の言葉は、僕の中の何かを壊した。
そうだ。僕は7つの時から、ずっと兄さんのために生きてきた。
7つまで僕を守ってくれた兄さんを、今度は僕が守れるだけの力を得るための人生だった。
だけど、この人生は僕の誇りだ。
兄さんのために、兄さんに尽くすだけの人生。
それが僕の空虚を埋め、僕は満たされていた。
なのに。どうでもいい人間の、どうでもいい言葉なはずだった。
ずっと見ないようにしてきた、自分の中の、欲。
兄さんだけを見てきた。兄さんを守ることだけを考えてきた。
ほんの少しでいい。
ほんの少し、報われたくなった。
そうして跡形もなく崩壊した壁の奥から湧き出た欲。
そうだ、僕には報われる権利がある。
見返りを求めない愛なんて、僕は知らない。
「愛してるよ、兄さん。」
そう言えば、兄さんは唇を噛みしめて、苦しそうな、悲しそうな顔をする。
違うんだ。ただ応えて欲しいだけなのに。
布団の上から圧し掛かっていた体をずらすと、布団を剥ぎ取る。
スウェットと下着をまとめて剥がした瞬間、吃驚したように兄さんの抵抗が強まった。
「な…っ、やめ…!!や、ゆきっ!」
非難するような声と、逃げるように引ける腰と、抵抗するように暴れる足と。
蹴られる前にその細い足首をつかみ取ると、ぐい、と膝を曲げさせ、反対の手に持った縄で縛った。
「や…やだ…ゆきお、っほんとに…こんなの、」
もう感覚が無いであろう両手に次いで、片足。どんどん身動きがとれなくなっていく体が怖いのか、縋るような目が見上げてくる。
兄さんは、唯一自由に動かせる片足で、ずりずりと僕から離れるように後ずさった。
その逃げる足首を掴んで引き戻せば、ひっ、と小さな声が上がる。
僕の中で無意識に押し殺されていた嗜虐心が溢れだした。
「は、放せよっ…なに、す…」
「何されるかなんて、分かるでしょ?」
親指の腹で、優しく涙を拭う。
左足を拘束していた縄の端を掴むと、少し弛ませて右足も同じように縛った。
悪魔を拘束するためのこの縄は、暴れるほどに強く締めつけ、麻ににたその繊維からは、動くたびに神経経路を麻痺させる成分が分泌される。
「っゆきお…頼むからっ…」
両膝を繋ぐように弛む縄を掴むと、兄さんの体を抱きしめるように引き寄せ、その縄を首の後ろに回した。
縄に引っ張られるように、両膝が上がる。
「っ、やぁああ!!」
上半身はタンクトップ1枚で後手に拘束され、下肢には何ひとつ纏わず無理矢理足を開かされて。
あまりの羞恥にか、兄さんは顔を真っ赤にして横を向いた。
「ひ、うぅ…っく、」
零れる涙はシーツぱたぱたと落ちていく。
「かわいい、兄さん」
覗きこむようにしてキスを送る。
固く結ばれた唇を舌でなぞると、微かに血の味がした。
「兄さん、あんまり唇噛んじゃだめだよ?」
きっとその治癒力ですぐに治ってしまうのだろうけど、癒すように何度もそこを舐める。
そして首筋に、鎖骨に、キスを落としていく。
ちゅう、と吸い上げて紅い痕を残したけれど、淡雪が溶けるように、すぐに消えてしまった。
「ひぐっ、ゆき、ほ、ほどいて…たのむから、っ」
「どうして?かわいいのに。」
動けずに怯えて、僕に縋る兄さんは、どんな時よりも可愛らしい。
「大丈夫だよ。僕が守ってあげる。」
そう庇護の誓いを紡げば、兄さんがぽろぽろと涙を流した。
ぎしぎしと縄によって戒められている足が宙に浮いている。
左足首に恭しく手を添えると、指先を口に含んだ。
「ひあっ!な、に、やって…や、やぁぁ…ゆきっ、やめっ」
1本ずつ丹念に舌を這わせ、指と指の隙間にも舌を差し込む。
そうすればぴくぴくと口の中で痙攣するように足指が跳ねる。
そういえば、昔っから神父さんに足をくすぐられて、こそばゆいのが我慢できずに暴れてたっけ。
やわやわと足指の付け根を噛むと、「んぅう」とくぐもった声が聞こえた。
「声、我慢しないで。聞きたい。」
顔を真っ赤にして唇を噛みしめる兄さんは、いやいやをするように首を左右に振る。
「そう。」
ちゅぷ、と糸が引くほど丹念に舐めたそこから口を離すと、くるぶしからふくらはぎを伝って、太腿の内側までを舐めあげた。
「っうぅ、っッあ!!」
太腿と臀部の境目あたりを甘噛みすると、高い声が上がった。
その皮膚の柔らかい部分を、噛んでは舐め、鬱血が出来るほどに吸い上げると、萎えていた兄さんの自身が僅かに反応し出す。
その先端に、ぺとりと舌をつけてみた。
「や…やだ!!雪男っ、そんな…っ汚い、ッ」
竿やカリ首も余すところなく丹念に舐めていく。
ぴくんぴくんと目に見えて反応しだす自身も可愛らしくて、そっと、傷つけない程度の力で先端を噛んでみた。
「痛ッあぅ!!」
ぷくり、と僅かに先端から蜜が滲む。
「ぅあ!やぁぁああア゛!!」
その先走りをちゅうっと吸い上げた直後、口の中に溜めていた自分の唾液を、先端から吹き入れるようにその細い入り口へと流し込んだ。
「あ…あ…っ」
やはり少ししか入らなかったけれど、きっとこんな感覚は初めてなんだろう、息を詰めて口をはくはくと戦慄かせる兄さんに、キスをした。