すぱいらる!!(1/2頁)

「なあなあ雪男、明日さ、勝呂と志摩、ここに呼んでいい?」

兄さんが僕のために作ってくれた、一つも手抜きなどされていない料理の数々を堪能していると、兄さんが思わず抱きしめそうになるほど愛らしく照れながら、全く可愛くない言葉を吐いた。

「……なんで?」

たっぷり考えてから、一言だけそう返す。

三輪君が居るならまだしも、何をしでかすかわからない煩悩ピンク頭と、兄さんが憧れるヤンキー風貌のギャップ真面目キャラのトサカ頭。

どんな用があってこの寮に足を踏み入れるつもりなのか。

「明日、4人でスキヤキパーティーしようぜ!」

キラキラと澄んだ瞳でそう言われれば、どんなに嫌なことであろうとも頷かざるを得ない。
さらにしょぼんと悲しそうに『しえみと出雲は用事があるんだって』と言われれば、思わずいいよと答えてしまった。

そして素直に喜んでいる兄さんが次に発した言葉で、ついに僕のメイン眼鏡のレンズにヒビが入った。

「あ、そうだ。予備の布団ってどこ仕舞ってあるんだろ?干しといてやらねぇとなー」

「な…な…なななんで予備の布団なんか要るの?」

「ふはっ、どうしたんだよ雪男、食べながら喋ると喉詰まっちゃうぞー」

お兄ちゃんな言葉にきゅんとしている場合ではない。

「ここの風呂でけーし、みんなで風呂入って並んで寝ようぜ!」

割れてしまいそうな眼鏡を押さえながら、必死で解決策を考える。

ペイジのあの時ならまだしも、今や兄さんが悪魔だということは周知の事実なので尻尾うんぬんで引きとめることは出来ない。

いっそ風呂場を爆破してしまおうかとも考えたももの、そんなことをすれば街の銭湯にでも行こうなんて流れになりかねない。

…よし、冷静になろう。

ここはひとつ冷静になって明日の計画を入念に練るほうがいい。

明日は学校帰りに買い出しに行かなくちゃね。

いいスキヤキ用の肉と、クマでも倒せる麻酔弾と、そうだ、学校へ向かう道にある銀杏の木の下を掘り起こせばミミズくらいは居るだろう。

頭の中の買い物リストにミミズ”と書き加えてから、今日のところは頭を切り替えて目の前のごちそうを堪能することにした。












一度着替やらを取りに帰って、坊と二人で旧寮に向かう。

「おっくむっらく〜ん」

入り口から上を見上げて大きな声でそう叫べば、すぐに窓が開いてキラキラ笑顔の奥村くんが手を振ってくれた。

それだけでもう、へらりと頬が緩む。

こっそり奥村くん狙いの坊と組むのは微妙だけど、丸腰で若先生の巣に突っ込むほど命知らずでもない。



「よしっ、じゃー作るか!」

俺作るし、3人で部屋で遊んでるか?なんて奥村くんの言葉に賛同する人間なんぞ一人も居るはずもない。

むしろ何が悲しくて奥村くんの手料理を前に決戦を行わなければならないのか。

おまけにTシャツに短パンというラフで素敵な格好の奥村くんが、エプロンという萌えアイテムをつけて新妻みたいになっているというのに見ないでどうする。

坊は顔真っ赤にしてチラ見してる。チラ見なんかもったいない!ガッツリ見やんと!!

玄人並みの手さばき、絶妙な味付け。

「ほんま、奥村くんが俺のお嫁さんなってくれたらええんに…」

「何言ってんだよー、ほらっ、今日は雪男がいい肉買ってきてくれたからさ!」

その奥村くんの言葉に、紙に包まれた牛肉のラベルを見れば、確かに俺達が手が出る値段じゃあない。

「さ、さっすが若先生、太っ腹やねぇ…」

「君たちとは違って、兄さんを養えるほどの仕事はしていますから。」

にこりと人の良さそうな笑みを浮かべているが、鬼畜だ。この人絶対奥村くん以外の人間抹消するのに躊躇わない人間だ。

バチバチと火花を、いや、8対2くらいの割合で押されてたけど、まぁ視線で頑張って応戦しているうちに、坊が抜け駆けして『何か手伝うたるわ』『ほんとか?んじゃあ洗い物と、あと小皿出しといてくれるか?』なんてちょっといい雰囲気になっていた。

「奥村くん!俺も何か手伝う!!」

「えーいいよ、もう終わるし。あとは待つだけだしな!座ってろよ!」

わお。全然意図に気付かない感じの優しいスルー。

しょんぼりしながらも、一番奥村くんが見える席に座って、ぼんやりと嫁妄想に浸ることにした。



「よし、んじゃー食うか!」

辺りにはスキヤキのいい匂いが漂っていて、クロも匂いにつられてトコトコとやってきた。

「にゃあ!!にゃ〜にゃ〜」

「おう、冷ましてやるからな、ちょっと待ってろよ〜」

相変わらず電波な会話を交わしているが、クロと戯れる奥村くんはごっついかわええ。


「「「「いただきます」」」」


「う…うまぁぁぁいぃぃぃ」

食堂のおばちゃんの料理の味も結構好きやけど、奥村くんの手料理はほんっっまに神がかっとる。

「へへっ、ありがとなぁ、志摩」

本音をゆうただけやのに、奥村くんの照れた笑顔が貰える最高の夕飯やで!

若先生もさすがに食事を堪能したいのか、食べ始めてからは攻撃、いや、口撃をやめてくれはった。

食事のあとはお風呂やし…うっふっふっふ。

にやにやしていれば、若先生の凍りそうな冷たい視線が正面から突き刺さった。

うん、大丈夫や。今日は奥村くんから離れへんし、奥村くんの傍おったら若先生も無茶できひんやろうしな!
*





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