彼の日常
俺達が入学して5年。
悪魔のアッシャーへの攻撃が強まり、祓魔師に認定された俺達は、日々任務に追われていた。
そんな折、ゲヘナから一通の手紙がグレゴリに届いた。
『サタンの血を継ぐ子供をゲヘナへ戻すならば、アッシャーへの攻撃を弱める』
上位の祓魔師と聖騎士であるエンジェル、そしてグレゴリの審議が行われ、サタンの血を継ぐ子供―― 奥村 燐は、ゲヘナへと送られることになった。
虚無界――
若!若!という、あまりの大歓声に、ゲヘナにある城みたいな家のバルコニーから、下を見下ろす。
「げっ、なんだこれ。なんで集まってんの?集団リンチ?」
「皆、若のご帰還を心よりお待ちしておりました…!若の麗しいお姿を一目拝見したくて集まった者共です…!」
「え、ごめん、ちょっと気持ち悪ぃんだけどなんだそのテンション」
どう考えても滑り出しと話がかみ合わない。
「若幼少の頃よりのブロマイドが現在で合計83億6千855枚の売り上げ…げふっ!!」
「あ、わりぃ。」
気が付くと手が出ていた。1ミリの迷いもなく。
「だめだ、また熱が出そう。」
また、というのは実に数時間前、珍しく知恵熱を出したところだった。
+++
ゲヘナに向かう前のこと。
「ぜっったい嫌だ。兄さんが行くなら僕も虚無界へ行くから。」
「え、若先生ずるいですわ!俺も行きまっせ!」
「お、俺は虚無界で直接悪魔の数減らすためやからな…!」
「…いや、普通の人間は向こうで生きれねーから…」
まさかこの面子でツッコミ役に回る日がくるとは思わなかった。
『わかった。じゃあ悪魔落ちする。』とか言い出した面々をどうにか貧困なライブラリー?ボキャブラリー?…を駆使して、なんとかゲヘナへたどり着いたというのに。
+++
「…で、俺の部屋どこ?っていうか俺ゲヘナに来て何すんの?」
額を押さえながらそう聞くと、従者の男は腹部を押さえながらよろよろと近寄ってきた。
「げほっ、ご案内はフェレス卿から…」
「げ!メフィスト来てんの!?」
「兄に向って、げ、とは失礼ですねぇ」ぼふん、という音と共に空中に現れたメフィストは、相変わらずピエロみたいな格好をしている。
「兄…かー…」
「げんなりした顔しないで下さいよ。兄上でもお兄様でも好きに呼んで下さって構いませんよ☆」
「いや、メフィストでいいや。」
「なげやりはいけませ…げふっ!「しゅたっ。…久しぶりです、奥村燐。やっと自由に遊べますね。」
ぷかぷか浮かんでいたメフィストを足蹴にするように、さらに上から落ちるようにして登場したアマイモンに、またしても「げっ」と声が出る。
アマイモンの『遊び』はシャレにならない。
「いや、遊ぶのは今度にしよう!な!クッキー焼いてきたから!」
そう言ってカバンからクッキーを取りだすと、アマイモンの目がきらきらと期待に輝いた。
「わーい。奥村燐のお菓子は格別です。これから毎日作って下さい。」
「…うん、わかった」
そのかわりに「遊び」と引き換えにしよう。
そう思いながら、ふと思い出したことを聞いてみる。
「っていうか、材料こっちにないんだけど。」
「それなら大丈夫ですよ☆」
服についた埃を掃いながら、アマイモンに足蹴にされたメフィストが戻ってきた。
「奥村くんの部屋には簡易のゲヘナゲートがありますから☆」
メフィストの言葉に疑問符を返しながら、「さ、こちらへ」と豪華な一室に通される。
ワインレッドと黒を基調とした、あまり趣味ではない部屋に通され、その部屋の角に『ソレ』はあった。
「これです☆」
塾の扉を思い出す、質素とも豪華とも言えないあまりに普通の扉に、なんて応えていいのかわからない。
「ここからなら自由にゲヘナとアッシャーを行き来できますよ☆ただし、これを通れるのは奥村くんただ一人です。」
私からのささやかなプレゼントです、と言うメフィストに、とりあえず礼を言うと、その扉を開けてみる。
「…え゛ぇぇぇえええええ!!!」
ガチャリ、と開けるとそこはついさっきまで住んでいた旧寮で。
え、なにこれ、ど○でも○ア?つかこんなすんなり戻れていいのか。ていうかこんなことならアッシャーの面々をあんな必死に宥める必要もなかったんじゃ。
メフィストに飛び蹴りしたい気持ちをどうにか抑えたかわりに、また眩暈がした。
俺の名前は、奥村燐。
最近、生活習慣が変わりました。
朝、死ぬほど眠い中がんばって起きて、雪男と志摩と勝呂とメフィストとアマイモンの朝食と弁当を作る。
そして掃除・洗濯。
(手伝われると手間が増える…というかよく服やら私物が無くなったりするので自分でしている)
そのあと、アッシャーで大量の買い出し。
帰ってメフィストとアマイモンの昼食とオヤツ作り。
午後からはゲヘナで『若に斬られたいぃぃ』とか意味不明なことを叫びながら突進してくる悪魔達をさくさくやっつけて。
夕方になればまた全員分の夕食作り。
そしてやっっっと自由時間が…!と思いきや、雪男は『兄弟水入らずで過ごしたい』と言いだすのでそれもそうだなと思うし、志摩は『新しいゲーム買うたから一緒にせぇへん?』なんて言ってくるから遊びたいし、勝呂は『手合わせしようや』と喧嘩吹っ掛けてくるから乗ってしまうし、メフィストは『おいしいスイーツ取り寄せたんですよ』なんて甘い誘惑を持ちかけてくるし、アマイモンは『遊んでくれないとアッシャーを破壊しに行きます』とか物騒なことを言い出すし。
そんな感じでアッシャーとゲヘナを行き来していれば、気付けば夜も更けている、そんな毎日だ。
「…あれ?なんかこんなの見たことあるな。」
料理をしている最中だけは誰も邪魔をしないこと!と言ってあるので、唯一落ち着ける時間だ。
キャベツを刻みながら、あ、と思い出した。
大家族のお母さんか!
ポンッともやもやが解消された半面、なぜか微妙な気分になったのは言うまでもない。
*
ゆらぎ様、リクエストありがとうございました!!
そして…すみません!!ズザッ
物質界・虚無界のアイドル燐ちゃん…のはずが、大家族のお母さんになってしまいました…!!
書いているうちに、みんな暴走し始めて、おそらく燐たんは振り回されるだろうな…という結論に(苦笑)
総受け難しいですね!(おい)
でもでもっリクありがとうございました!!
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