ボーダーライン (4/5頁)
物音一つしない空間に、またカチャリと扉の開く音が聞こえた。
それが10分だったのか、もしくは30分以上過ぎていたのか、感覚だけでは全く分からなくなっていた。
ひたり、ひたりと静かな足音が近づいてくる。
「ゆきお…?」
返事は返ってこなかった。
「…?ゆき、?」
しゅるりと布が擦れるような音がして、ギシッとベッドの端が重みに僅かに沈む。
「っゆきお?どうして何も言わねぇんだ…っ?」
軋む音が近づいてくる。
ぞ、と鳥肌が立つ。
目の前に居るであろう人間が、雪男じゃなかったら…?
むしろ、人間でもないとしたら…?
「や…っ」
布団から這い出て、近づいてくる音と逆方向に四つん這いのまま逃げる。
パニックになっていた俺は、ゴッ、という嫌な音を立てて思いっきり壁に頭を打ち付けた。
「――痛ッッ!!」
頭を押さえて蹲る。でも、こんなことしている場合じゃない。
とりあえず視界を塞ぐ包帯とネクタイを剥ぎ取ろうとした瞬間、その手首を強い力で掴まれ、後手に捻りあげられた。
「なっ、っぐ、…!」
一瞬で反対の手も後ろに引かれ、布が手首に巻きつけられる。
引き千切ろうとしても、繊維が伸びることも千切れることもなかった。
「なに…っ、う…や…いやだっ!!はずせよっ!!」
じんっと腕が痺れるように重くなる、この感覚は知っている。
悪魔を拘束するためのものだ。
膝を付いたまま両手を後ろ手に縛られて、額をシーツに擦りつけるような態勢になる。
どぷり、と冷たくてどろりとした液体を尻の間にかけられる。
何のためかなんて、嫌でも分かった。
「っひ、…やめ、やめろっ…!!」
液体のぬめりを借りて、指がずるりと体内に入り込んでくる。
「っうぁ…!や、だ…っ」
『嫌だ』『やめろ』、その言葉に雪男なら無反応なはずがない。
だけど、内壁が雪男の指だと認識する。
銃器の扱いに馴染んだ固い皮膚、引き金を引くために間接が太くなった指、照準を合わせる繊細な指の動き――俺は、この指を知っている。
「っあう…っん、」
その指先が前立腺を僅かに掠り、びりっと電気みたいな快感が走った。
ぬるぬるとしたその液体が体温に馴染んでくると、今度はじんじんと内部から熱を発生させる。
熟れるようにソコが熱くなってくるのがわかる。
「ゆき…っゆきお、っ」
何度呼んだって、雪男は何一つ応えてくれなかった。
「うぁ、っく…ン、」
ぐちゅぐちゅと内奥を指で掻き混ぜられて、必死にシーツを噛んで声を殺す。
ずっと付いている膝と額が痛んだ。
指を引き抜かれると、覆いかぶさるように圧し掛かられ、ぴとりと熱く猛ったものを押しあてられた。
「っは、ぁ…っ」
両手の親指で入り口を皮膚が引き攣れるほどに左右に広げられる。
ぐっと熱いものが隙間から押し進んできて、喉を通る空気が ひゅ、と潰された音を鳴らした。
指とは全く違う質量のものがずるりと入り込んで来る。
内壁を擦られる感覚に、背筋が痺れ、内股が痙攣した。
「っゆき、ぃ…っやあ、あ…あ…っゆきお、っ」
まるで俺のことなんて興味なさげに、がつがつと抜き差しをされて、溢れた涙は落ちることなく視界を塞いでいるネクタイに吸いこまれていく。
窒息しそうなほどの愛を与えられることはあっても、こんな空虚な行為をされることはなかった。
「いやだっ…や、やっ…」
ぶるぶると足が震えだす。
「ゆきおっ、ゆき…ゆきっ」
しゅるりと腕の拘束が解かれ、解放されるのかと思った瞬間、そのまま両手首を掴まれる。
そのままぐいっと引かれて、胸が浮き上がった。
「ひ、ぐっ、あ゛…!!く、くるし…っ」
雪男のソレが、これ以上ないほど深くまで突き刺さり、息が詰まる。
「あ゛っ、やあ…ああ…っ」
腕を引かれ、がんっと突き上げられた。
「あぐっ…!やあ゛、あ゛、うっ」
俺の腕をぐいと引いて、自分の腰を引くと、また奥まで突き上げられて苦しい。
肉と肉がぶつかりあう音が響いて、恥ずかしい。
「あ!ッあ、あ、やあ、っ!」
あまりに深すぎて、体中がびくびくと痙攣し出す。
こんな、こんな悲しい繋がり方で。
「やだ、ッあう、いやだ…っ!イっ、あ、あ…ゆ、き…っ!」
ひっ、ひっと勝手に喉がしゃくり上げる。
「い、やだ…っ、ひあっ、こ、こんなのっ…あ、」
「 燐 」
名前を呼ばれた。
それだけで、体中に痺れるような甘い快感が駆け抜けた。
「っあ、あぁああっ…!!」
雪男のモノをぎゅうぎゅうと締めつけながら、自身からはぼたぼたと精液が零れ落ちる。
「ふあ、ぁ…ぁぅ…」
雪男は、ぐたりと力が抜けた俺の体から手を離すと、俺の目に巻かれていた包帯に手を掛けた。
しゅるりとゆっくりと解かれていく感覚。
はらはらとシーツに包帯が落とされた音がした。
Next→