ぼくとしっぽと酔っぱらい
いや〜…かなんわー
何でかゆうたらですね、俺の膝の上には奥村くんの頭があってですね、当の奥村くんはそら幸せそうにむにゃむにゃ言いながら寝てはるんですわ。
「起こそかな〜いや、でも気持ち良さそうに寝てはるしな〜…」
すやすやと眠る奥村くんの横には、食べきった弁当のカラと、飲みきられたチューハイの缶が置いてある。
奥村くんがサタンの仔やなんてそらびっくりやけど。
いや、缶チューハイ1杯でここまで酔えるんにもびっくりやけど。
まぁ、血の繋がりは奥村くんの意思は関係あらへんのやし、しゃあないんやないかなぁ〜いや、でも坊はめっちゃパニックなってはるし、面倒になりそうで嫌やわ〜。ま、あんま関わらんとこ。
とか思っていたのがしばらく前。
あかん、もう関わらん方が難しいわ!と、関わらんことを止めたのが少し前。
で、現在。
「あかん、めっちゃ気になるわ。」
寝息に合わせてふよふよと揺れていた尻尾は、今、俺の右腕にゆるく巻きついている。
「こそばいねんけどー…って、起きる気ゼロやな自分。」
貰った返事は「すきやき…」だった。
「悪魔っちゅーかこれ、完全 猫やんか。」
「うお、こそばい!え、尻尾って無意識なん?」
しゅる、とほどけた尻尾は、今度は俺の背中をさするようにうろうろしてる。
「どうなってんねやろ、これ。」
ぴら、とシャツを捲ると、尾てい骨あたりで繋がっているらしく、そこから艶やかな漆黒の毛が続いている。
根元に嵌められた、紋様の入ったリングがキラリと光る。
「そういえば、尻尾って急所なんやっけ。」
あの半端ない痛がり様からして、「股間よりも痛いんやろなぁ」と、そこまで考えて、痛くもないのに うわぁと顔を顰めた。
だが服の上からとはいえ、背中をもぞもぞと撫でられるのはなんだか落ち着かない。
痛かったらごめん、と心の中で先に謝っておく。
背中に回る尻尾を外そうと、そっと、触れるほどの力で尻尾を掴んだ。
「っんン…」
「おあ!?」
思わず奇声をあげて放してしまった。
な、なんやったんやろ、今の。痛かったんかな。
びっくりした。ドキドキと心臓は早鐘を打っている。
もう背中から尻尾は外れていたが、意識は尻尾から外れなくなっていた。
もう一度、そうっと手を伸ばして、今度は指先でつつ、と撫でてみる。
「う、…ぁ」
「!!!」
あかん、あかん、あかん!
物凄くいけないことをしている気分になる。
中学の時に、保健室で女の子と戯れた時ぶりに。
いやー、あの時は若かった。今も若いけど。…やなくて!
激痛も股間並みなら、股間並みに尻尾は性感帯なのか?
あかん…気になりすぎるわ…
いや、男の股間に興味はないねんけど…
そう自分を正当化するようにぶつぶつ呟く。
奥村くんはまだ眠ったままだ。
せめて今、目を覚ましてくれたらこの思考と興味を止められるのに。
今度は1度目よりも少し強めの力で握ってみる。
そう、自分でスる時と同じくらいの力加減で。
「っあ…は、ぅンんっ」
その力加減のまま、ずりずりと手を滑らせると、予想通りというか、予想以上の艶っぽい声が耳に入った。
あ か ん…!!
じわり、と。僅かに熱を持ち始めた自身に、ここで止めなければ変態になる、と自分に言い聞かせる。いや、もう十分変態のような気がするが。
ちょっと確かめるだけ、と、意味のわからない言い訳をして、奥村くんの股間に手を伸ばしてみた。
僅かに硬くなっているのを指先で感じて、かぁと今さら顔に熱が集中する。
(…気持ち、ええんや…)
「…はっ!あかん!変態になるとこやった!」
再び尻尾に手を伸ばしかけたところで、我に返ったように大声で自分を叱咤した。
「んぅ?しま…?」
「おおおおお奥村くん!そろそろ部屋戻らなあかんで!な、行こ!」
「んーおれのすきやきは…?」
俺の大声で起きたらしい奥村くんは、まだ寝ぼけているのか、キョロキョロとあたりを見回す。
「あー!すきやきな、すきやき部屋置いてあるから!!ほら、はよおいで!」
そう言うなり、俺は奥村くんの手を掴んで歩きだした。
次の日。
昨日のこと、覚えてたらどないしょう………まぁ、夢やて思わすしかないか。
そんなことを考えながら、奥村くんに話しかける。
「奥村くん オハヨー」
不自然ちゃうやんな? 眠いわ〜みたいなテンションで行ったほうがよかったやろか。
「…昨日ちゃんと部屋戻れた?」
恐る恐る…という雰囲気がばれないよう、極力普通のトーンで話を続ける。
あかん、目見られへん。
「…覚えてねー」
奥村くんがそう言うと、思わず「よっしゃ!」と心の中でガッツポーズをした。ちょっと最初の数秒の沈黙が気になるけど。いやいや気にしたら負けや。
「あっはっは やっぱりなー」
後は出来るだけ昨日の話題に触れんと会話しよ。そんなことを考えていたら、金兄に飛び蹴りくらわされた。
思わずキレたけど、ふっとびながら『ナイスタイミング金兄!』と思わずにはいられなかった。
結論:奥村くんのしっぽは性感帯やった。
*
…というやりとりがあったらいいのに。という妄想。
←小説TOPへ戻る