01総受け
対・奥村雪男の場合
雪男の手には、二つの弁当箱。
俺の手には、一つの水筒。
弁当を届けるついでに一緒に飯を食っている俺達は、さくさくと歩きながら裏庭へ向かっている途中だった。
「雪男って…むずかしいよな〜」
ぼそり、と。考えていたことが思わず言葉に出たらしい。
「…何が?」
「へ…!?いや、えーと、その、いつも難しい顔してるよな!ってことだよ。」
思わず言い訳すると、「そうかな?」と眉間をさするようにしている雪男を見ながら、「セーフ」と、今度はちゃんと心の中で呟く。
とりあえず、昼飯の分の水筒を、さっき一気飲みしてカラにしてきたが、「お茶買ってくれ」なんて言えば「どうして全部飲んじゃったの?兄さんは水でも飲んでれば?」とか言われてもおかしくない。
第2のダンジョンですでにラスボスが出てきた感じだ。
そうこう考えているうちに、裏庭に出るまでの最後の自販機が近づいてきた。
もうここしかない。どうせ水筒の中は空なんだし。
「ゆ…ゆきおっ…」
肩に顎を乗せようとしたら、距離感を間違ったらしく、雪男の肩に思いっきり顎をぶつけてしまった。
(いってぇぇ…!!)
またもや想定外。
地味な痛みに若干涙目になりつつ、ここで引きさがるものかと思いとどまる。
とりあえず顎乗せは失敗したが、制服にしがみ付くように雪男の腰に手を回した。
「に、兄さん!?」
体を半回転させてこっちを向いた雪男に、「買ってくれ」作戦は諦めることにした。
「悪い…水筒のお茶…全部飲んじまって…」
ちら、と見上げると、雪男の顔が至近距離にあった。
光が眼鏡に反射してて表情が読み取れないが、すぐに返事がないことを考えれば、なかなか怒っている。ぴきぴき来てる感じだこれは。
「…お茶なんてそこで買えばいいよ、ね?」
あれ?
なんだか物凄く雪男の機嫌がいい。
「え?お、おう。でも俺、金持ってねー…」
「大丈夫、兄さんはここで待ってて?」
タタッと走って行ってしまった雪男は、すぐにお茶を買って戻ってきた。
「さ、早くお弁当食べよう?」
そう言って手を取られ、スキップでもしそうな勢いで裏庭へ向かう雪男を見ながら思った。
(よくわかんねぇけど…機嫌良い日でよかった〜!さすが俺!日頃のおこないがいいってやつだな!)
お茶は1本、半分こだったけど。
それでも奢ってもらったことには変わりない。よな?
ペットボトルを見ながら少しにやけてしまった。
がっつり雪男に見られたが、雪男もふふ、と嬉しそうに笑っていたので良しとしよう。
みっしょんこんぷりーと!
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雪男の笑み、は間接チューの笑み。