06 総受け
可愛らしい、人と悪魔のハーフ、そして私の小さな末の弟である奥村燐は、よく私の部屋に来る。
塾の無い日の放課後、出席日数の足りている授業のエスケープ先…理由はさまざまだが、今日も私の自慢のソファに身を沈めながら、珍しく目を輝かせてテレビを見ている。
いつも彼が見ているのは料理番組かアニメなのだが、今日はたまたま付けた番組が面白かったらしい。
そっと彼の後ろからテレビを覗き見ると、『今日のテーマは小悪魔☆』と画面の左上にテロップが出ている。
「おおぉぉ…!」
感嘆の声を上げる彼の視線の先では、
『お財布がピンチの時の小さな処世術☆「奢ってもらうだけ」が嫌なあなたに!彼には嬉しさを最大限表現し、感謝を伝え、気分良くなってもらう。これが小悪魔のギブアンドテイクよ☆』
という意味のわからないナレーションが流れている。
(どこに納得する要素があるんですかねぇ…)
素直な尻尾はくるくると宙を舞っている。
(まぁ、楽しそうでなによりです☆)
自分の机に戻ると、パチンと指を鳴らして和菓子と緑茶を出すと、和風ティータイムにすることにした。
「メーフィースートー?」
「…?どうしたんですか?」
トトト、と軽い足取りで近づいてきた彼は、私の背後に回り込むと、その身を少し屈めて肩に顎を乗せ、椅子の背もたれごと包むように、するりと手を回してきた。
「メフィスト、お腹すいた!…ケーキ…食べたい…」
(先ほど見ていたテレビはこれですか。まったく、この子は…)
最後の方に不安になったのか、少し戸惑いながら言うその言葉に、彼特有の純粋な可愛らしさが見えて、呆れながらもパチリと指を鳴らしてしまった。
(まったく。私も甘いですねぇ)
「わっ…!こ、これ食べていいのか?」
自分でねだったくせに、そんな純粋な反応をする。そういう所が飽きないのだ、彼は。
ふふ、と笑って、
「君が食べたいと言ったんでしょう?」
そう言うと、照れたようにふわりと嬉しそうに彼も笑った。
「へへ…いっただっきまーす!」
「さすが『小悪魔系』だな!俺にぴったりだ!」
まぐまぐと食べながらそう呟いた彼に、またパチリと指を鳴らして紅茶を出してやりながら、心の中で呟く。
(いや、その悪魔とは違うと思うのですが…)
まぁいいか、と言葉にせずに、見守ることにした。
(面白そうですしねぇ)
本当に小さな弟の横顔を見ながら、小さくほくそ笑んだ。