独占欲2
「もう、兄さん、ついてるよ。」
そう言って、教えてあげるより早く、頬についた食べかすを舌で舐め取る。
ざらりとしたその感覚にくすぐったそうに笑うけれど、兄さんは避けたりしない。
「ゆきおー、このから揚げ、明日の弁当にも入れていいか?」
「うん、いいよ。明日の出し巻きは甘めがいいな。」
「珍しいな〜。わかった、まかせろ!」
任務が無い日は、兄さんの機嫌がいい。
なぜなら、僕は任務がない日は絶対に「課題しろ」なんて言わないから。
逆に、任務で僕が居ない間は課題をプレゼントしておけば、眠ってしまうことはあっても出かけたりすることはない。
そんな僕の勝手な理由も知らずに、「一緒に居るときは家族の時間を大切にしたいから」なんて、そんな美しく飾った僕の言葉に、兄さんは「そうだな」と笑って頷いてくれる。
「兄さん、今日は任務も無いし、一緒にお風呂入ろっか。」
「おう!たまには兄ちゃんが髪洗ってやる!」
「じゃあ僕は尻尾洗ってあげるよ。」
「え゛!いやだ!なんか雪男に触られると、ひょひょってするから。」
「何、ひょひょって。」
「えーと、こういう感じだよ!ひょひょって。な?」
そう言って、肩を竦ませるようにして体現して見せてくれたが、おそらく「くすぐったい」と「ぞわぞわする」の間とでも言いたいのだろう。
「じゃあ今日見せて。ひょひょってなるところ。」
「お前っ…、どえすだな!」
「ドSのSって何か知ってる?」
「エスパーのSだろ。」
そうだよ、とまた嘘を教えて、ごちそうさまのキスをおでこに一つ。
そして、ふと思い出したように、人差し指の背で、兄さんの唇をそっと撫ぜた。
「?なんかついてる?」
彼の、指も、こうやって撫ぜていた。
この唇に、キスをしようとしていた。
「…ううん。」
す、と指を離すと、食器を洗い場に運んでいく。
あぁ。おぞましい。
兄さんの体に触れていいのも、キスをしていいのも、全部、僕だけなんだよ。
『弟』だけが、兄さんに触れていいんだよ。
ずっと、兄さんを守ると決めたあの日からずっと、こうやって大切に守ってきた。
「ねぇ、兄さん。これからも、ずっと――」
「ん?」
楽しそうに洗いものを片付けていく兄さんの腰に、後ろからそっと手を回す。
「おあ、食器落としたらあぶねーだろー、ゆき。」
「うん、ごめんね。」
「ほんと雪男って、家では甘えただなー」
そんなこと言いながらも、甘えられるのが好きだってことも知ってる。
知ってて、自分の感情を擦り替えて、僕は『弟』のまま兄さんを抱きしめていた。
「ずっと、傍にいてね」
さき様、『独占欲』続編、リクエストありがとうございました!
えろすはありでもなしでも、ということで…
雪男に対する燐の感情が「兄弟愛」の枠を越えていないので、ちゅーまでにさせていただきました!
こうやって燐の『兄弟愛』の定義を小さい頃から歪ませてる雪男が歪んでて好きですw
そして燐が一般常識の面でおばかなのは、雪男の教える嘘のせいだといい(笑)
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