恋の心音3 | ナノ


恋の心音(3/5頁)

カラン、と歩きなれない下駄の音が二つ。

色鮮やかな屋台の群れに、カコッカコッと小走りになるような音が聞こえて、奥村くんが走って行った。

「あっ、下駄でそんな走ったらあかんえ」

「しまっ、しまっ!これ、買っていい?」

奥村くんが何故俺に聞くかといえば、柔兄が「好きなもん買い」とお小遣いを渡したからで。

律儀に聞かなくても好きなものを買えばいいのに、と思うのは、やはり俺は弟だからなのか。

「うん、好きなん買うてえぇよ。」

笑顔でそう答えれば、たこ焼きやらフランクフルトやらカステラ焼きを次々とその胃に納めていく。

本当に、どこにそれだけのものが入っていくのか謎で仕方ない。


今度気になったのは、真っ白な綿みたいなそれがカラフルなパッケージに包まれた、わたがし。

「おっちゃん、俺にやらせて!」とはしゃぐ姿は子供そのもので、クスリと笑みが漏れる。

俺にしたらただの砂糖でできた塊やんか、と思うけれど、「ほっほっ」とか言いながら頑張る奥村くんは可愛らしくて、割り箸にいびつな形に巻かれていく砂糖の雲を見ながら、微笑ましい気持ちになる。

「できたーっ!」

「兄ちゃん、溶けてまう前にはよ食べぇやー!」

「おー!サンキュ、おっちゃん!」

おっさん鼻の下伸ばすな!と心の中で威嚇しながら、優越感満載で腰に手を回したけれど、はぐはぐと何度もわたがしに噛みつくように食べる奥村くんは、全く俺の行動に気付いていないようだった。

「志摩も、」

食え、と差し出されて、端っこを齧ると、齧ったそこからすぐに溶けて、甘さだけが口の中に残った。

「なんや…ちゅーしたなる味やなぁ」

なぜか思いついて、思いついたままぽそりとそう言えば、ボンッと火がついたように奥村くんが顔を赤くした。

「ば、ばか!ほら、…行くぞっ」




暫く歩いていると、また目を輝かせて俺の浴衣のすそをくいくいと引っ張る。

「しま!金魚すくい、しようぜ!」

そう言って奥村くんはちゃきちゃきとポイを二つ受け取ってきて、「勝負だ!」と、そのうちの一つを渡された。

キラキラした目で、赤い金魚の群れを追いかけ始めた奥村くんに気を取られていれば、思いっきり突進してきた出目金にポイを突き破られた。

「志摩、へったくそだなー!よし、俺がリベンジしてやるから!」

腕まくりをしたその腕に触れたくなったけど、邪魔したら怒られそうだったのでやめておく。


「おぉ〜!めっちゃ取れたやん!」

「おう!すげーだろ!」

にしし、と笑って、小さな透明な袋の中で泳ぐ、真っ赤な金魚を見る。

ふと聞こえた小さな鳴き声に下を見下ろすと、全く取れなかったのだろう、男の子がぐすぐすと泣いていた。

「……これ、やるから泣くな。」

目線を合わせるようにしゃがみこむと、奥村くんは『お兄ちゃん』の顔をして笑った。


(ほんま、いろんな顔しはるなぁ、奥村くん。)


ぽん、と頭を1度撫でると、驚いたように見上げてきた。

「奥村くん、花火、見にいこ。」

「…っ、しま…」

きゅ、と手を握れば、誰かに見られていないか心配するように、きょろきょろと辺りを見渡した。

きっと俺の地元だからと。心配してくれてるんだろうけど。

(俺は誰に見られてもえぇんやで。)

そう言ったって、きっと気にしてしまうだろうから、言わないけれど。

く、とその腕を引いて、屋台の並びから1本外れた道に入る。

「知ってる?お祭りってな、誰が手繋いでもえぇねんで。はぐれんように。」

「そうなのかっ?」

知らなかった、と嬉しそうにほほ笑んだ奥村くんは、きゅ、と手を握り返してくれた。

(神さん、こんな可愛らしい嘘吐くくらい、許したってや。)

「うん。行こ、俺の特等席。」




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