恋の心音2 | ナノ


恋の心音(2/5頁)

「そういえば、志摩の兄ちゃん達には会ったけど、志摩の家って行ったことねーよな!楽しみ〜!」

なんてうきうき遠足気分の奥村くんの言葉に、柔兄と金兄の存在を思い出す。

(しまったぁぁぁああ!!)

「お、奥村くん!俺、浴衣やっぱりえぇわ。奥村くんだけどっかで着替えて行こ?」

ぴたりと止まった歩みに、不思議に思って顔を覗くと、しゅんとした顔の奥村くんが居た。

とてつもない罪悪感。

「志摩の家…行ってみたかったのに…」

ぽそりと悲しそうな声が小さく耳に届く。

「まだ時間あんのに…」

さらに拗ねた声でそう呟かれる。

「やっぱ俺のことなんか家族に会わせたくないよな、」

一人で納得して悲しそうに笑った奥村くんを、思わず抱きしめる。

「ちゃうねん!そうやのうて、」

奥村くんのことは「未来の僕の嫁さんです。素直でかいらしぃて、料理が上手ぁて、もう堪らんのです。」と言って地元のみんなに紹介して回りたいくらいだ。

「う…うちにはな、悪魔が2匹住みついとるんや…」

途切れ途切れにそう言えば、奥村くんが「えっ、大変じゃん」と本気で心配してきた。

「いや…なんていうんやろ、京都特有の退治でけへん悪魔でな、うん。そいつらに奥村くんを合わせたぁなかってん…」

嘘はついていない。

まさにあの兄たちは、退治できない悪魔だ。

「そ、そうなのか?大変だな、京都って。」

「うん、ほんま大変…」

今から鉢合わせするだろう、二人の兄の顔を思い浮かべれば、情けない声が出た。









「…ただいま…」

できるだけ声が響かないように、こっそりと玄関の扉を開ける。

「お、おじゃまします!!」

(奥村くんのあほぉぉぉお!!)

よく通る声で、律儀にも元気よく挨拶してくれた奥村くんに、熱が出そうになる。

「え、奥村くん?」

「おわっ!燐君やんかー!」

バンッと奥の障子が開いて、柔兄と金兄が顔を出す。

(ちょ!金兄なに調子乗って燐君とか呼んでんねん!シバくでほんま!)

ギリッと奥歯を噛みしめたものの、小さい頃からのトラウマでシバくどころか、シバくと声に出して言うことすら出来ない。


「柔造さん、金造さん、こんにちは!」

「た、ただいま…いや〜すぐ、出るんやけどな!」

さっさと着替えて1秒でも早くここを出たい。
この悪魔の巣窟を。


「時間ないし着替えよか、な、奥村くん!」

「おう!志摩の浴衣姿、早くみたい!」

キラキラと楽しそうな表情が可愛らしすぎて、思わず頬が緩む。

「こっちこっちー」

部屋へと案内すると、別に普通の、むしろ古臭いとも言えるその和室を見て、奥村くんが「おぉ〜!」と声を上げた。

「な、見ても感動するような部屋ちゃうやろ、」

「え、するよ。だって志摩が小っさい頃からここで生きてきたんだろ。」

消しきれなかった壁の落書きや、机に触れて、そんな愛おしそうに言われたら、やっぱり連れてきてよかったと思った。

「それに、志摩の匂いがする」

へへ、と笑う奥村くんを、思わずぎゅうと抱きしめた。

(そんなこと言われたら、あかん…!)

ドキドキと跳ねる心臓に、反応してしまいそうな下半身をどうにか制すると、奥村くんが不思議そうな声音で、「どした?」と聞いてきた。

「ううん、…なんか俺の部屋に奥村くんが居るて、不思議な感じやなぁって…確かめてみたなって。」

どういう理由やねん、と心の中でセルフつっこみすれば、奥村くんが背中に手を回してくれた。

「確かめなくても居るに決まってンだろ!」

「おくむらく…!」


「何いちゃついとんじゃ廉造ォー」

バンッと開かれた障子の向こうから、またもや悪魔が現れた。


「奥村君、浴衣とか着慣れてへんやろ〜手伝ぅたろか?」

「え、あ、ありがとう、ございます!」


「燐君、尻尾触らしてぇや」

「ふぎゃ…!?」


服を脱がしていく柔兄に、やらしい手つきで尻尾を撫でる金兄。

「ちょ!ええ加減にしてや二人とも!!」

自分の手以外で、奥村くんの白い肌を曝されるのが我慢ならなくて、思わず叫ぶけど、にやにやと二人は不敵な笑みを浮かべているだけだ。


「俺は着替えさしたってるだけやで?なぁ奥村くん?」

「え、ッあ、はぃ…っ」

二人の手にぴくぴくと反応する奥村くんを取り返すべく、間に割り込んだ。

「俺の奥村くんに、触らんとって!!」

「…!し、ま…!」


「…ふーん。ほんなら、帰ってきたらまた着替えさしたるわなぁ」

そう言って去って行った悪魔二人…いや、二匹の背中を見送りながら、小さくため息を吐いた。

(…ぜっったい浴衣のまま帰ろ。)




NEXT→



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -