む心臓 (2/4頁)


硝煙と聖水の匂いが付いたコートを脱ぎ、左側ですうすうと眠る燐に近づき、ひざまずいた。

「ただいま、兄さん」

横を向いて涎垂らして眠る、子供みたいな兄さん。


枕元に置いてある携帯に手をやる。
神父さんに貰った、理事長しか番号が入っていなかった携帯。
今は僕と友人たちの名前も増えた。

ピピ、と操作して、電話とメールの履歴を確認する。
着信履歴にはしえみさんの名前があった。

(何、話したの)

心臓のあたりが ざわつく。
この感情の名を、僕は知らない。


兄さんを見ると、僕の感情なんて無関係かのように、無邪気な顔をしてすうすうと寝息を立てている。


かわいくて綺麗な寝顔にくちづけを。

おでこをサラサラとすべる髪にも、月明かりが照らす白い頬にも。

髪から覗く尖った耳に軽く咬みつけば、「んん」と小さく唸って体を捻って上を向く。

薄く開いた口元から覗く真っ白な牙に舌を伸ばしてから、だらしなく零れる涎を舐め取った。

下唇を食み、なぞるように舌を這わすと、呼吸を塞ぐかのようにキスをした。


(ねぇ兄さん。しえみさんと何話してたの? うれしかった? 兄さん寂しがりだもんね。 …人間なんて、やめときなよ。)


舌を差し込んで上顎をなぞると、「んん…」とくぐもった声が漏れた。

そろそろ起きてしまうだろうか。

ぼんやりとそんなことを思いながら、体は止まらない。

折角舐め取ったのに、また兄さんの口からは唾液が伝っていた。

(あぁ、これは僕のかな?)

舌を拾って絡めた途端、ビクリと体が跳ねた。

ゆっくり口を離すと、僕と兄さんを繋ぐように銀糸が月明かりにキラキラ輝いていて、途中でプツリと切れた。

「は、っ…ゆ、き…?」

夢か現か。その間を彷徨っているような。むしろ夢であってほしいと願うような、眼。

「ただいま、兄さん」

「…お、かえり」

不安げに見上げてくる揺れる蒼い瞳に、僕はなぜか『毎日』を壊したくなった。

(兄さんの不安そうな顔。かわいいね。)


「おやすみ、兄さん。」




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毎晩、燐の携帯をチェックしてそう。(酷)