04 Cobalt-3 | ナノ


Cobalt(3/5頁)

「ちょっと、話あるんだけど」

塾が始まる前、扉の前で待ち伏せして、ピンク頭を呼びとめた。

「えー、なになに〜?出雲ちゃんから話て珍しいやんかぁ〜もしかして俺、告白されるとか?」

ふざけてそう言うピンク頭に、心底イライラする。

「馬鹿言ってんじゃないわよ」

ひらりとスカートを翻して一番端の空き教室へと入ると、追うようにしてピンク頭が教室に入ってきた。


「笹川夏姫。」

その名を言葉にすれば、少し眉根を上げて、ふ、と小さく哂った。

「…あぁ、もう噂回ってんねや」

「付き合ってるの…?」

「うん」

興味なさげに「で?」と聞いてくるピンク頭に腹が立つ。

「あんたっ…、あのバカのことが好きなんじゃないのっ!?」

「…は?」

激昂して思わず叫んだ言葉に、訝しげな顔で首を捻られた。

「…っ、一昨日の夕方っ…あんた、教室に…」

「あぁ〜、なぁんや。出雲ちゃん居ったん?」

へらりと笑って近づいてきた志摩の眼が、その笑顔に似つかない鋭さで、思わず後ずさる。

「ふ…、二股…じゃない!」
責めてやれば気まずそうな顔くらいするかと思ったのに。

目の前の男は心底不思議そうな顔をして「なんで?」と聞き返してきた。

「な、なんで、って…」


脳裏にフラッシュバックする、彼の朱い顔。

不敵に哂うコイツの前に膝をついた彼が、あの後ナニをしたかなんて、想像がつく。

それ以上見たくなくて、逃げるように去ったけれど。


「奥村くん、男の子やんか。」


返す言葉が見つからなかった。

幸せかと聞けば、彼は苦しそうにでも頷いたというのに。

悔しくてじわりと涙が浮かんだ。

「なん…っで、なんで!?あんたもあのバカのことが好きなんでしょ!じゃあっ…」

「え、なにそれ。おもろいことゆうなぁ出雲ちゃん。」

愕然とした。

へらりと笑うコイツに、体中の血が怒りで沸騰するのが分かる。

「男の子相手に、好きやとか付き合うとか、…その方が可笑しいやんか。」

酷く似合わない倫理的な正論を吐かれ、ぎりぎり留まっていた涙が遂に決壊した。

「…あいつの性格分かってるでしょ…!?」

――こんなに、自分は報われないというのに。
「かいらしいとは思っとるで?真っ赤になって、『すき』やて。フェラはへたくそやけどセックスは気持ちえぇし、あと…」

ぎりぎりと握りしめた手が痛い。

制御できなくなった怒りに身をまかせ、その手を振りかぶると、振り下ろす前にパシッと手首を掴まれた。

「…あぁ、そうなんや。」

「離し、なさいよ…っ!」


「出雲ちゃんて、奥村くんのことが好きなんや。」


にやにやと哂う目の前の男に、どうして天罰が下らないんだろう。

反対側の振りあげた腕も同じように捉えられて、黒板に押さえつけられる。


「でも、奥村くんは、俺のことが好きやねんて。」


「―――っ」

次から次へと涙が零れ落ちる。

一番見られたくない奴に見られながら。


「あぁ、出雲ちゃんのその顔、そそるわぁ」


怒りを越えて、哀しみだけが体中を駆け巡って、そこに残ったのは絶望だった。

力が抜けて行く。

ゆっくりと腕を下げられ、掴まれていた手首を放されれば、手首には強い力で戒められた指の痕が残っていた。


「あ、もうじき授業始まってまうやんか〜」

そう言って何事もなかったかのように去っていく、憎い男の背中を見送って。


その場にずるずるとしゃがみ込むと、誰かを抱きしめるように、自分を守るように、自分の膝をキツく抱え込んだ。


「なんで…、アイツなのよ…っ」


子供のように無邪気な残酷さだった。


止まらない涙は次々に溢れて制服に染み込んでいく。

せめて、あの優秀な弟だとか、真っ直ぐ愛してくれそうな勝呂だとか、そう、杜山しえみでもよかった。

アイツに比べたら、誰だって彼を幸せにしてくれそうだから。

願わくば、その相手が自分であればと。


そう願ったけれど、また彼の哀しそうな、けれど真っ直ぐな瞳を思い出して。

きっと彼はあの男を見続けるんだろうと思った。



Next→





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -