ある日の休日。 (2/2頁)
「食ったぁ〜」
「お腹いっぱいだね、…って食べてすぐゴロゴロしないの。」
ばふん!と、とり入れたほかほかの布団に飛び込んだ兄さんに呆れたように言う。
確かに沈めば気持ち良さそうだけど。
とは言え、まだ8時半を少し回ったところだ。
早くて夜中の2時にしか布団に入らない僕にとっては、この時間にうとうとする兄さんが信じられない。
「ほら、先にお風呂入っておいで。」
「ん〜…」
放っておいたら1分後には寝ているだろう兄さんに声をかけると、のろのろと着替えを取り出して、風呂場へ向かったようだった。
+++
明日の授業のレジュメをもうすぐ作り終えるというところで、キィと扉が開く。
時計を見れば10時前で、えらく長風呂をしていたようだ。
「遅かったね。もしかして湯船に浸かったまま寝ちゃった?」
「うぐ…ま、まぁいいじゃねーか!」
図星だというように兄さんが肩を竦ませる。
「溺れたりしないでよ?」
「だーいじょうぶだって。なークロ!」
「あっ、もう。髪濡れたままで布団に入らないでってば。」
肩にかけたままのタオルを取り上げると、クロとじゃれている兄さんの髪をわしゃわしゃと乾かしていく。
「うひゃひゃ!くすぐってぇっ」
「動かないの。ちゃんと拭かなきゃ風邪ひいちゃうよ。」
「お前ほんとおかーさんみたいになって、うぎょっ!」
髪をある程度拭き終わると、たっぷり水気を含んだままの尻尾も拭いてやった。
毛を逆立てて潰れた声で反抗していたけれど、どうやらコレは力が抜けるらしいので僕には都合がいい。
涙目で睨みつけてくる兄さんに、
「はい、できた。もう布団入っていいよ。」
とほほ笑みかければ、兄さんはきょとんとした後に物凄く怪訝そうな表情をした。
確かに、いつもなら『あと2時間は勉強してから寝ようね』なんて言うところだから、変に思うのも無理はない。
「雪男…熱でもあんのか?」
「ないよ。何、勉強したいの?」
「したくないデス。」
「でしょ。ほら、湯冷めしないうちに布団入って。」
部屋の電気を消してやると、自分の机のスタンドの電気だけをつける。
素直に布団に潜り込んだ兄さんは、しばらくするとうつらうつらし始めた。
「雪男は…まだ、寝ねーのか、」
「だってまだ10時半だよ?」
あと3時間は仕事ができる。
そう言えば、兄さんは拗ねたように布団に顔をうずめてしまった。
なぜ機嫌が悪くなったのか分からなくて、兄さんのベッドに腰掛けてちょっとだけ布団から出ている頭を撫でてやると、その手を掴まれて布団の中へといざなわれた。
「わ、どうしたの?」
「お前も、寝ろ、」
布団の中からもごもごと聞こえてくる兄さんの声は、やっぱりちょっと拗ねている。
布団の中に入っている左腕は、太陽の温度と兄さんの体温で温かい。
ごそごそと兄さんが壁側に寄って、スペースを空けてくれたので、その隙間に潜り込む。
布団の中は温かくて、陽だまりの匂いがした。
「ふふ、あったかいね。寝ちゃいそう。」
「寝ろ。雪男もたまには俺より早く寝ちまえよ…」
なぜか自分より先に僕を寝かせたいらしく、うとうとしながらも必死に起きようとしている。
「おやすみ、兄さん」
「おやすみ…ゆき…」
布団の温かさと、兄さんの落ち着いた呼吸音に、だんだんと意識が落ちていくのがわかる。
そして、その時ふと、昼間の買い物で兄さんが今日は「特別な日」だと言っていたのを思い出した。
うとうとし始めた思考で、でも気になりだしたら止まらない。
(『言ったら意味がなくなる気がするから言えない』、ってなんだろう…)
ぐるぐると今日が何の日か考えるけれど、やっぱり答えは出そうにない。
「兄さん、起きてる?」
小声でそう話しかけると、寝言のような声で返事が返ってきた。
「ねぇ、今日って特別な日なんだよね。」
「…んー」
眠い時の兄さんは素直だから、きっと答えてくれるだろうと、優しい声で答えを促すように聞いてみる。
「何の日か、教えてくれない…?」
「…ゆきお、が…」
そこまで言ってまた寝てしまいそうな兄さんに、慌てて「僕が、なに?」と声をかける。
「にんむ、なくて…ずっと、いるから…」
どくり、と心臓が跳ねる。
「僕が、ずっと居るから…特別な日…?」
「うん、」
そして、僕の心臓だけ跳ねさせて、すぅ、と眠ってしまった兄さんの手を緩く握った。
「もう、眠れないじゃない。」
頬が火照るのは、きっと温かい布団のせい。*
誠様!ほのぼのツインズ、いかがでしたでしょうかー!?
料理シーンも書きたかったんですが…しまった、メニューすき焼きじゃん!(笑)
眠くなると素直になる燐たんが書けて嬉しいです(*^o^*)
リクエストありがとうございました!
そしていつもコメントありがとうございます(≧∇≦)
とても励みになってます♪
これからも遊びに来てやって下さいませ(*´∇`*)
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