ある日の休日 (1/2頁)

「にゃぁ」

「クロ、おはよう。兄さん起こしてきてくれる?」

ぽふぽふと爪を立てず僕の足を掻いてきたクロに、ご飯前の一仕事だと頼めば、楽しそうに鳴いて走り去った。

カゴに溜まっている洗い物を、洗濯機の前に貼ってあるメモを見ながら洗濯機に入れていく。

「えーと…先に色物をわける。シャツは先にこっちの液体をつけて…えっと、」

もたもたとメモと今持っている服を見比べながら一着ずつ分けていれば、ぼさぼさの髪をぽりぽりと掻きながら、兄さんが起きてきた。

「おはよう、兄さん。」

「おふぁお〜ふぁ。」

大きな欠伸をしながら近づいてきた兄さんが、寝ぼけ眼のまま、カゴの中の洗濯ものをぽいぽいと洗濯機に入れていく。
乱雑に入れているようで、きっちりとネットに入れたりして分けられている。

「雪男、洗剤ー」

「どれくらい?」

「上から二つめの線くらい」

てきぱきと指示をするくせに、瞼はもうすぐ閉じてしまいそうにふわふわと夢うつつをさ迷っている。

洗剤のキャップを目線まで持ってきて、上から二つ目の線まで液体の洗剤をとろとろと注いでいると、兄さんの尻尾がぺしりと緩く背中に当たった。

「お前、いっつもそんなキッチリ入れてたのか?」

「だって上から二つ目の線って言ったじゃない。」

「うん…俺が悪かった。」

へにょりと落ちた尻尾を見ながら、何故きっちり計ってるのに項垂れられたのかわからなかったけど、気にしないでおこうと思った。

「あ、今日一日晴れるらしいから布団干そうか。」

「おー、そうだな!」

洗濯機を回して二人で部屋に戻ると、クロがぴこぴこと走ってきた。

「にゃあぁぅ」

「おー、そうだな。これ干したらな!」

「クロ、なんて?」

「ごはんまだ?って。」

そういえば朝ごはんを急かされてたんだった、と思い出しながら、布団を干し終えると、二人と一匹で食堂へ向かった。


てて、とクロが走って厨房に入っていく。

テーブルの上には味噌汁と焼き魚のいい匂いが漂っている。

「「いただきます」」

よくそんな量を食べて太らないな、と思うほどに、兄さんの茶碗は山盛りだ。

「ねぇ兄さん、今日は街に出ない?」

「ん?いいぞ。何か買いに行くのか?」

そう言われて、目的なく街に行こうとしていたなんて自分らしくないと思ったが、そんな余裕ができるこんな一日が嬉しかった。

「ううん…たまには街のスーパー行こうよ。」

「おぉぉおお!いく!超いく!街に新しいスーパー出来たって、正十字マートのレジのおばちゃんが言ってたんだ!」

至極嬉しそうに言う兄さんの表情は、僕の心に固まって引っかかっているいろんなものを溶かしていく。

(今日は勉強、しないでいいよ。)

言葉にすると、兄さんは毎週日曜日はしないでいいとか都合のいい方に受け取ってしまうだろうから、心の中で小さく呟いた。










パンッと小気味いい音を立てて、丸まったシャツを伸ばして干している。
どうやら兄さんはこの作業が好きらしい。

僕は隣で靴下を洗濯バサミがいっぱいぶら下がっているそれに、ちまちまと干していく。

「そういえばコレって何て言うの?」

「え?角ハンガー。」

あっさりと答える兄さんに、なぜそんな覚えなくてもいい物の名前は覚えられるくせに簡単な漢字は覚えられないんだろう、と不思議に思う。

2回目の洗濯機を回しながら、部屋の掃除を二人で終わらせてしまうと、また洗いあがった洗濯物を干して、外は綺麗になった服やシーツでいっぱいになった。

「よしっ!」

その光景を眺めて、兄さんが嬉しそうに笑った。

「お昼は街で食べようか。出るのはちょっと早いから…クロと遊んであげなよ。」

パタパタと揺れる洗濯物の向こうで、クロが遊びたそうにうずうずしているのが見える。

「そっか、んじゃークロ!上行こうぜ!」

走り出した兄さんとクロを見送って、僕も昨日の任務報告書を書きに部屋へと戻った。



+++



「ふぅ。」

報告書を書き終え時計を見ると、1時を少し回ったところだった。

部屋を出て兄さんを探していると、庭の日向ですやすやと昼寝している兄さんとクロを見つけた。

「兄さん、起きて。買い物行こうよ。」

「う〜むにゃ…」

寝返りを打っただけで、起きようとしない兄さんの耳元で、「新しいスーパー行くんでしょ?」と言うと、パチリと目を開けた。

「そうだった!雪男、行くぞ!クロ、散歩して待ってろよー!今日は肉だぞ!」

「にゃーにゃー」

やったー、とでも言ってるんだろう、嬉しそうにクロがぴょんぴょんと飛び跳ねていた。

電車で行こうと思っていたけど、小腹が空いていたので鍵の束から街の中心部にある正十字デパートへと繋がる鍵を取り出す。

「ほんとお前どこの鍵でも持ってんのな。」

感心した風に言う兄さんに、「尻尾直してね」というと、思い出したようにしゅるりと服の中へと尻尾を仕舞った。








街は正十字学園の中とは違って、日曜ということもあり活気にあふれていた。

ホットドッグを買って、ベンチで軽い昼食を取ると、雑貨屋を覗いてみたり、大型の家具店に行ってみたり(なぜか兄さんは日曜大工コーナーを見ていたけれど)、兄さんの私服を買ってあげたりして。

そのうち日が傾いてきたので、そろそろスーパーへ行こうと提案すると、思い出したように目を輝かせた。


「おぉ〜!卵安い!あっ、サンマ1匹100円!!なぁ雪男、明日サンマにするから今晩スキヤキにしようぜ!?」

「だめ。スキヤキは特別な日だけって言ったでしょ?」

「今日、特別じゃんか!」

諭そうとすれば、兄さんがふくれっ面でそう答えた。

「え、今日って何かの日だっけ?」

「言ったら意味がなくなる気がするから言えない…」

歯切れ悪くそう言う兄さんに、それでも嘘ではない表情を見て「しょうがないな」というと、ぱあっと表情を明るくさせた。
*





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