◎ 致死量の愛(1/3頁)
※さんぴー注意
(…あれは、)
屋上を見上げれば、柵の隙間から、ふわりふわりと揺れる、黒い紐が見えた。
(って、尻尾じゃないか兄さん!!)
「まったく。いくら魔障を受けていない人間には見えないっていってもね、あんなグラウンドから丸見えの屋上で無防備に尻尾ぱたぱたしないこと!わかった?」
「いーじゃんか、塾生以外に見えねーんだから!こまけーなホクロ眼鏡!」
体育の授業を放りだしてまで注意しに来たというのに、聞く耳を持たない兄さんにビキリ、と血管が音を立てる。
チャイムと同時、ふわ、と欠伸を一つ残して、屋上を去る兄さんの後を追う僕はとても冷静だ。
冷静に、階段を降りた兄さんの首根っこを掴んで、音楽室の隣にあるトイレへと引っ張りこんだ。
「げほっ!ごほっ!なにすっ、だよ、っげほ、」
ネクタイで一瞬首が締まったようで、苦しそうに咳き込む兄さんを、一番奥の個室へと追いやる。
「引っ張ったことに関してだけは謝るよ。だけど、兄さんも僕に2つ謝って1つ約束してもらわなきゃいけない。
ひとつ、僕の注意を無視したこと。ひとつ、僕のことをホクロ眼鏡と呼んだこと。
そして僕の忠告をちゃんと聞いて尻尾は外では仕舞っておくと約束すること!」
「雪男…」
「なに?」
「お前、話なげぇ」
やはり言葉で説得するのは無理みたいだ。
「じゃあ、兄さんが分かるやり方で教えてあげる」
にこり、と笑いかけると、危険を察知した小動物のように、尻尾の毛を逆立たせた。
「ん…んあっ…」
「ン、ぷは、だめだよ、兄さん。もう授業始まってるから、声だしちゃ。」
そう言うならやめろ、と言いたい。
言いたいところだけど、俺は蓋を降ろした便座の上に座らされて、なぜか自身を雪男に舐められている。
またぴちゃりと雪男の舌が触れて、声を上げそうになって慌てて両手で口を塞いだ。
「ふ、くっ…ン、んぅ…」
弱い所を知りつくされている雪男に舐められて、声を出すなという方が無理だ。
押さえている手が弱まって、声が漏れそうになって、また思いだしたように口を押さえて。
「っあ!」
つぷり、と雪男の指が入ってきた瞬間、たまらず声を上げてしまった。
「…兄さん、」
「若せーんせ、奥村くん独り占めはあきまへんでぇ?」
柔らかい、独特のイントネーションの声が上から降ってきた。
「し、志摩!?」
「しーっ!あんま大っきー声ださんとって。音楽室使てはるから。」
そう言う彼は、隣の個室との仕切りの上から、にやにやと見降ろしている。
「何やってるんですか、志摩君。」
「奥村くんが声出さんよぉに、手伝おかなー思て。」
聞けば、さっき雪男に引っ張り込まれた所を見てたらしい。
『入り口に札貼ってきたから、人近づいたらわかるんやー、偉いやろ?俺。』
なんていう志摩の周到さに吃驚する。
「それはありがとうございます。」なんて普通に応じてる雪男に、どっからつっこんでいいのかわからない。
雪男が鍵を開けて志摩を個室に迎え入れると、中学の時みたいな狭いトイレとは違うとは言え、そこは所詮トイレ。男3人が入れば狭いに決まってる。
出て行けと声を荒げそうになって、少し向こうには音楽室があるという状況を思い出してひくりと喉を震わせると、二人揃って笑顔を浮かべた。
「うん、まぁ二人居れば声押さえられるよね?」
「ほんで奥村くん、どっちの咥える?」
だめだ、眩暈がする。
いっそ気絶してしまうことが唯一の逃げ道の気がしたが、それを許すような二人ではないことは確かだ。
無駄に手先が器用な二人に、一瞬にして俺は靴と靴下だけの格好にされた。
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