04 Cobalt-1 | ナノ


Cobalt(1/5頁)

※出→燐要素あり


「出雲ちゃーん、えぇ加減アドレス教えてやぁ〜」

「はぁ?なんでアンタなんかに教えなきゃなんないのよ」

「冷たいなぁ〜そんなとこも出雲ちゃんらしくて好きやけどー」

へらへらと笑うピンク頭。

女好きですぐ付き合って別れてを繰り返して。

なのに、学校の女子にはなぜか人気で。

――それが、志摩廉造の、イメージ。




「ねぇ、志摩君、あの笹川夏姫と付き合い始めたってほんと?」

「B組の?」

「元子役やってた子でしょ?」

朝学校に行ってすぐに、クラス中の女子が騒いでいて、その内容に思わず持っていたカバンを落としてしまった。

「ちょっと…朴、何なのこの噂」

「すごいねぇ、志摩君。あの笹川さんと付き合ってるんだって。」

朴が『あの』と言うほど、彼女は有名人だった。
美人で、スタイルが良くて、元子役で、今はモデルをやっている。
雑誌でも何度も見かけたことがある。

そして、彼女も男の噂が絶えない人だった。


どうしたの?と不思議そうに朴が落としたカバンを拾ってくれた。

「それ、ほんとなの…?」

「うん、昨日から付き合うことになったって、笹川さんが言ってたらしいよ?」

「そ、んな、」


「ほーら、何騒いでんだ、席つけー」


動揺が隠しきれなくて、力が抜けたように椅子に座った。

(そんなわけ…だって、アイツは、)

昨日の夕焼けが、脳裏を過ぎった。





+++





「あっ、朴、先に寮戻ってて。」

明日提出のプリントを机の中に置いてきてしまい、滅多にしない小さなミスに、心の中で舌打ちする。

今日は久しぶりに塾が無いから、朴と街に買い物行こうと思ってたのに。

「じゃあまた後でね」と去っていく朴を見送って、小さくため息をつくと今来た道を折り返した。


それぞれの部活の場以外は静まり返った、教室が並ぶその廊下を小走りに戻る。

自分のクラスまで、あと少し。

あと少しのところで、カタン、と小さな音が教室の中から聞こえて、思わず立ち止まる。


なぜ気になったんだろう。

なぜ見てしまったんだろう。


ふと、視線が勝手に動いて、夕日でオレンジに染まる教室を見た。


「――――っ」

見覚えのある二つの人影に、思わず息が詰まる。


『なぁ、奥村くん、俺ンこと好き…?』

不敵に笑うその姿は、いつものアイツからは想像もつかないほど、落ち着いた空気を纏っている。

対してアイツ――奥村燐も見たことのない表情をしている。

『す、き…』

その弱弱しい声は、初めて聞く声音だった。


揺らめく瞳があまりにも綺麗で、震える唇が愛おしくて、どうして、どうして自分じゃないんだろう、と。


無意識に思って、気付いてしまった。


かつて杜山しえみが必要以上に嫌いだったわけを。

彼女があまりに素直で、あまりに純粋で、あまりに彼に近かったから。


私は、あの綺麗なコバルトブルーの瞳が好きなのだ。

綺麗で、強くて、どこか儚い、彼が好きなのだ。



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