◎ Cobalt(1/5頁)
※出→燐要素あり
「出雲ちゃーん、えぇ加減アドレス教えてやぁ〜」
「はぁ?なんでアンタなんかに教えなきゃなんないのよ」
「冷たいなぁ〜そんなとこも出雲ちゃんらしくて好きやけどー」
へらへらと笑うピンク頭。
女好きですぐ付き合って別れてを繰り返して。
なのに、学校の女子にはなぜか人気で。
――それが、志摩廉造の、イメージ。
「ねぇ、志摩君、あの笹川夏姫と付き合い始めたってほんと?」
「B組の?」
「元子役やってた子でしょ?」
朝学校に行ってすぐに、クラス中の女子が騒いでいて、その内容に思わず持っていたカバンを落としてしまった。
「ちょっと…朴、何なのこの噂」
「すごいねぇ、志摩君。あの笹川さんと付き合ってるんだって。」
朴が『あの』と言うほど、彼女は有名人だった。
美人で、スタイルが良くて、元子役で、今はモデルをやっている。
雑誌でも何度も見かけたことがある。
そして、彼女も男の噂が絶えない人だった。
どうしたの?と不思議そうに朴が落としたカバンを拾ってくれた。
「それ、ほんとなの…?」
「うん、昨日から付き合うことになったって、笹川さんが言ってたらしいよ?」
「そ、んな、」
「ほーら、何騒いでんだ、席つけー」
動揺が隠しきれなくて、力が抜けたように椅子に座った。
(そんなわけ…だって、アイツは、)
昨日の夕焼けが、脳裏を過ぎった。
+++
「あっ、朴、先に寮戻ってて。」
明日提出のプリントを机の中に置いてきてしまい、滅多にしない小さなミスに、心の中で舌打ちする。
今日は久しぶりに塾が無いから、朴と街に買い物行こうと思ってたのに。
「じゃあまた後でね」と去っていく朴を見送って、小さくため息をつくと今来た道を折り返した。
それぞれの部活の場以外は静まり返った、教室が並ぶその廊下を小走りに戻る。
自分のクラスまで、あと少し。
あと少しのところで、カタン、と小さな音が教室の中から聞こえて、思わず立ち止まる。
なぜ気になったんだろう。
なぜ見てしまったんだろう。
ふと、視線が勝手に動いて、夕日でオレンジに染まる教室を見た。
「――――っ」
見覚えのある二つの人影に、思わず息が詰まる。
『なぁ、奥村くん、俺ンこと好き…?』
不敵に笑うその姿は、いつものアイツからは想像もつかないほど、落ち着いた空気を纏っている。
対してアイツ――奥村燐も見たことのない表情をしている。
『す、き…』
その弱弱しい声は、初めて聞く声音だった。
揺らめく瞳があまりにも綺麗で、震える唇が愛おしくて、どうして、どうして自分じゃないんだろう、と。
無意識に思って、気付いてしまった。
かつて杜山しえみが必要以上に嫌いだったわけを。
彼女があまりに素直で、あまりに純粋で、あまりに彼に近かったから。
私は、あの綺麗なコバルトブルーの瞳が好きなのだ。
綺麗で、強くて、どこか儚い、彼が好きなのだ。
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