05 雪燐(雪男悪魔落ち)
今日はさ、スーパーでマグロ解体ショーってのがやっててさ、見てみろよこれ、こんなでけー切り身が980円だったんだぜ!
今日は刺身で食って、明日の昼飯にづけ丼作ってやるから。
あとはお前が好きなサバの味噌煮と、キンピラと、いつもの味噌汁と。
あ、忘れてた…出し巻きも食うよな、すぐ作ってやるからな!
俺の飯食うの久しぶりだろ。
感激すんぞ、おふくろの味ならぬ兄貴の味だからな。
やっぱり兄さんの料理が一番だ、って。
30分後にはそう言わせてやるから!
お前が好きな料理だけは、俺、誰にも負けねーからな。
「なぁ、雪男…帰ってこいよ…」
俺の料理、食いてーだろ。
食卓には、2人分の、温かい料理が並んでいる。
俺の隣の席には、もうずっと誰も座っていない。
視界が滲んで、ぽちゃん、と。
湯気を立てている味噌汁の表面を揺らした。
「俺の、料理、食えよっ…」
そしたらきっと、帰ってきたくなるから。
ある夏の終わり、一人の少年が悪魔になった。
ふと思い付いた燐の独白。
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