03志摩→燐
「奥村くん、ケータイ番号、交換せぇへん?」
きょとん、と振り向いた奥村くんに、心臓が跳ねる。
少しして、「いいぞ!」と笑ってくれるだけで、嬉しくなった。
「ほんまっ?ほんなら…」
ピピと操作して赤外線部分を差し出すと、また不思議そうな顔をした。
「あ、わり、俺 使い方わかんねぇんだ!」
してくれ!と渡された携帯を受け取る。
(奥村くんの、携帯…)
自分の携帯と赤外線部分をくっつける。
自分の携帯と好きな子の携帯くっつけるって、ものすごくドキドキする。
「はい、でけたで」
「お、さんきゅ!」
携帯を返しながら自分の携帯に登録された奥村くんのアドレスを見た。
「え…」
rin-yukio.love@ …
ビキリと音を立てて停止した俺に、奥村が「しまー?」と柔らかい声をかける。
(この声好きやねんなぁ…ってちゃうちゃう。機械音痴の奥村くんが自分でこのアドレスにしたとは考えられへん。確認したない!したないけど気になってしゃあない!あああ〜!)
「お、奥村君、いつも登録とか、誰にやってもろてんの…?」
「ん?雪男がやってくれるぞ?」
やっぱりー!!?
怖っ!奥村先生もろに牽制してはるやん!えええ〜怖いわ…
「そうなんやぁ…。すてきな、アドレスやね…」
半分灰になりながら、そう言うと、奥村君が携帯を見て小さくほほ笑んだ。
「うん、」と恥ずかしそうにほほ笑むその顔に、あかん、勝てへん。そう本気で思った。
「そっか。…そっかぁ〜」
へにゃりと、ちょっと苦しいのは隠せへんかったけど、笑ってみせる。
だって、好きな子が幸せそうにしとるんやもん。
悲しいけど、こんな幸せそうな顔されたら勝てへんわ。
さすが奥村先生、完敗や。
…そこまで思ったところで、ぽつりと奥村くんが零した。
「ジジィが、考えたやつだから、…なんか変えれなくてさ。」
「へ…?」
あれ?俺、諦めへんでええんですか?
ジジィ、て確か、親父さんのことやんね?
「…な、…なんやぁ〜」
そういうことやったんか。
「びっくりしたぁ…。…ほんなら俺、諦めんでもええんやね?」
蒼い瞳を覗きこむと、意味わ分からないといった様子で、「なにがだ?」と聞いてきた。
「ううん…気にせんとって〜」
一気に機嫌が良くなった俺を、不思議そうに見て、こてんと首を傾げた。
*
しろうパパはかっこよすぎる。
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