02勝→燐
「『そーなん?』」
「それはわかるぞ!『そうなのか?』だろ?」
「じゃあ、『かましまへん』」
「『構わない』だろ?志摩ぁ〜もっと難しいの出してくれよ!」
塾の休憩時間中、トイレに行って帰ってきてみれば、志摩と奥村がキャッキャと騒いでいた。
内容からすると方言クイズのようなものか。
騒ぐ奥村の声は煩そうに聞こえて、実はそうでもない。
(子犬のキャンキャン吠えとるんと似とるな)
ほっとこ。…そう思って鞄の中からペットボトルを取り出して喉を潤す。
「なぁ志摩ってば!」
「ふふ、ほんま奥村くんは かいらしいなぁ。」
ごほッ!げほっ!
「うお!勝呂何やってんだよ。だいじょぶか?」
「げほっ。大丈夫、や。」
当の志摩は、こちらを心配するそぶりもなく、奥村の跳ねた髪をくるくると指で遊びながらにやにやと人の悪い笑みを浮かべている。
「志摩!おべんちゃらばっか言うとんちゃうぞ!」
「えー別に今の愛想で言うたんちゃいますもん。」
「??今のどっちだ?かいらしい?おべんちゃら?」どうやらクイズの続きだと思ったらしい奥村が、解らない単語にコテンと首をかしげた。
「『かいらしい』やで、奥村くん。」
「んーかいらしい…かいらしい……お!『痒いらしい』か!」
「残念。ヒントは「奥村くんは」やで。難しかったら、坊に聞きはったら宜しいわ。俺ちょっとトイレ行ってこよー」
「ちょ!志摩!コイツ放ってくなや!」
こっちを振り返りもせずひらひらと手をふる志摩に苛立ちを感じた瞬間、ドンッと背中に重みを感じた。
人一人分くらいの。
「なぁ勝呂、『かいらしい』は『痒いらしい』じゃねーの?」
おしえろ! と耳の真横で紡がれる楽しそうな声。
「あーもう降りぃ!暑っ苦しい」
「ちぇ。あ、ほんとだ。勝呂、顔赤ぇーぞ?」
ひょい、と背中からなくなった熱に、安堵と少しの寂しさを覚える。
(さみしい、て何やねん。んなわけあるか!)
「あ、そーいや志摩のヒントは俺だっけ。 なー勝呂、俺って「かいらしい」のか?」
油断していた。至近距離から覗きこまれ、まさかの問い。思わず頷きそうになる。
「あ、阿呆か!お前なんぞにそんなん、思うか!」
また顔に熱が集まってくるのが解る。
(志摩のボケ、あとで絶対しばいたる!)
*
天然燐たんに恋しちゃう勝呂くんがかわいくて好きです(笑)
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