01雪→燐
バキッ!
「わ、わ、わ!ごめん、燐!」
雪男の対・悪魔薬学の授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると同時に、解らなかったところを聞きに教壇の方へ足を踏み出したしえみの足の下で、何かが割れた音がした。
おずおずと差し出されたのは、真ん中の部分が割れた、燐のシャープペンシル。
カチカチとノックを押してみても、割れた部分が引っ掛かっているのか、芯は出ないようだ。
「いや、落とした俺が悪りぃんだし、気にすんな!」
にかっと燐が笑えば、しえみは「よかったらこれ使って!」と自分のシャーペンを取り出した。
「いいって!メフィストにまた買ってもらうし!」
ピキリ、と空気が一瞬固まった。
悪気はねーんだし、文房具だし、事情話したら買ってくれんだろ!という燐の声は誰の耳にも届いていない。もちろん、『文房具や制服・教科書等の、学校で必要なものは後継人であるメフィストが持つ』なんてルール決めは、雪男以外、誰も知らないわけで。
入学すら特別待遇だった彼だ。
傍から見れば、ただの「理事長のお気に入り」なわけで。
唯一事情を知っている雪男がどうするかな、と考えていると、
「あ、あんた、理事長に何か頼まれて、買ってもらったことある…?」
黙っていられなかったのであろう、出雲から際どい質問を投げられた。
「そんなわけないじゃないか、ねぇ兄さん。」雪男の台詞は、その口から紡がれることはなかった。
「ん?あー、この前はお前ら着てる制服着たら、スキヤキの肉買ってくれた!」
そう指差したのは、勝呂達の制服でもなく、弟が着ている祓魔師の制服でもなく…出雲としえみの制服だった。
(((((理事長ぉぉぉぉ!!!!!)))))
「ちょっと兄さん!そんなこと聞いてないよ!」
「へへん!3日前のスキヤキの肉、ちょう旨かっただろ〜クロも喜んでたしな!」
「兄さん一人を養って贅沢させられるくらいの稼ぎはあるから、二度と、絶対に、理事長に何かを買ってもらっちゃだめだよ?わかった!?」
雪男があまりにも真剣な声で言うので「お?おう、わかった!」としか答えられなかった燐だが。
そのとき、奥村兄弟を除く全員が、「この弟の方が危険なのでは」と思っていた。
*
全員の前で雪男にプロポーズ的なことを言わせてみたかった。
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