毒を孕む薬 (1/5頁)
ひたり、と液体をしみ込ませた、冷たくて丸いガーゼが腕に貼られていく。
「今のところ、痛くはない?」
「おう、大丈夫だ。」
ぱっちてすと、ってやつらしい。
なんか、聖水と何かを混ぜたものを何種類か10倍に薄めて染み込ませたガーゼを、俺の皮膚に貼っていく。
そうして俺にハレルヤ反応ってのが出なければいいらしい。
「んで、ハレルヤ反応ってなんだ?なんかおめでたい名前だな!」
「…アレルギー反応ね。まぁアレルギーとは違うけど、兄さん聖水に触れたら火傷しちゃうでしょ。ああいう風に、兄さんに効果が無くて、純粋な悪魔だけに効果のある毒を作ろうと思って。」
「…お前やっぱ難しいことしてんだな。」
半分くらいしか理解できなかったが、とりあえず俺が怪我しない聖水を作ろうとしてくれてるのだけはわかった。
「ありがとな。雪男。」
「お礼ならキスが欲しいな。」
「なっ…そ、んな、っ」
躊躇っている間に、雪男の手が首筋に触れて、音もなく近づいてきた雪男に、キスをされた。
「…っ、んっ、ぁ…」
ちゅ、と可愛らしい音が自分の口元から聞こえて、温もりが離れていった。
なぜか、寂しさを感じた。寂しさなんか、感じてしまった。
触れ合うことに、躊躇いが無くなった雪男と、受け入れそうになる自分と。
怖くなって、雪男の胸を両手で押して遠ざけた。
「……、」
雪男は、何かを言いかけて、噛み殺した。
無言のまま、雪男の指がゆっくりと俺の腕に貼られたガーゼを剥していく。
どれも赤くなっていたり、ぴりぴりしたり、痒くなったり、俺に影響のないものはなさそうだった。
「全部、だめだったな。」
「うん…また調合変えてみるよ。痛い?」
「こんくらい、すぐ治るからへーき。」
そう言うと、ぽん、と頭を撫でられて、雪男はガーゼとか液体の入った瓶をもくもくと片付け始めた。
ぎこちない空気が苦しくて、逃げたくなった。
最後に触れた日から4日、雪男はキスしかしてこなくなった。
兄弟で触れ合うことが変だってことに気付いたのか。
それとも、俺が、自分で、あんなことしたから、嫌いになったのか。
ズキリと心臓の辺りに痛みが走る。何の痛みかわからなくて、俺はそれに気付かないフリをした。
いっそ、キスさえしなければ。
俺達は兄弟に戻れるんじゃないか、って。
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