哀惜の掌 (4/6頁)
任務が予定より1日早く片付いて、兄さんに電話をかけて。
自分でも驚くほどに、兄さんの声が心地よく耳に響いて。
明日の授業の準備があったので、一度塾へと向かった。
すぐに眠ってしまう兄さんのことだから、きっと今頃眠ってしまっている。
最初は、ただの悪戯心だった。
もう任務が終わったことを告げず、そっと帰って、抱きしめて眠って。
目が覚めたらびっくりするように。
そんな、子供みたいな悪戯心だ。
授業の準備を終え、準備室の扉に、寮へと帰る鍵を差し込む。
そっと扉を開くと、押し殺した兄さんの声が聞こえた。
泣いているのかと思うような、掠れてくぐもった声。
「ぁ…ぁっ、」
一瞬、志摩君の顔が過り、背筋を冷たいものが滑り落ちた。
ホルスターに手を掛けながら、足音を立てずに近づくと、ベッドの下にスウェットと下着が脱ぎ捨てられていて。
けれど、ベッドの上の塊は人一人分だった。
「うあ…っん、んんンっ、」
その塊の中から、押し殺すことのない快楽に呑まれた声が聞こえる。
「ぁあっ、ゆ、き…っ、う、あぁぁあァ――!!」
紡がれた嬌声に、自分の名前が混じっていて。
甘い、ひたすら甘い熱が、全身を駆け抜けた。
ばさっと布団を勢いよく捲ると、横向きに体を折り曲げて横たわっている兄さんが視界に入る。
そして兄さんの腕が前から後孔へと伸ばされ、中指がそこへ埋め込まれたまま放心しているのを見た瞬間、どくりと一気に下肢が重くなった。
「だめじゃない、一人で気持ちよくなっちゃうなんて。」
「ゆ…き…」
蕩けた声は、モルヒネのように僕の脳内を麻痺させる。
今日は精一杯気持ちよくしてあげる。
気持ちいいことだけして、兄さんが好きな言葉をプレゼントしてあげる。
手始めに、甘いキスから。
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