「…短いんじゃない」 校門のところでスガさんが来るのを待っていた。「ごめん、待たせた?」ってかけよってきたスガさんに、いいえってただ首を振って、「帰りましょーか」って声をかけたら、わたしのことを見ていたスガさんが少しだけ眉をひそめて、そう言った。短いんじゃない?何がだろうか。前髪だろうか。やっぱり、切りすぎたかなぁ。バレない程度に軽くそろえただけのつもりだったんだけれど。 「やっぱりバレちゃいます?切りすぎないように気を付けたつもりだったのになー」 「…前髪の話じゃないよ?」 「えっ?」 「前髪は似合ってる。可愛いよ」 「え、あ、ありがとうございます」 スガさんはすぐにさらっと人のことを誉めることができるひとだ。わたしはいつも、それに慣れることができずに少しだけ戸惑う。 「そうじゃなくて。スカート、短いんじゃない」 「えー、そうですか?可愛くない?」 「いや、可愛いんだけど…」 「スガさんに可愛いって思ってもらうために短くしてるんですよ」 「…だからなまえはー…。そうじゃなくて!嬉しいけど!俺だって男なんだからもう少し警戒心をもってさ」 「……あははっ」 困ったように告げられた言葉に思わず笑ってしまう。だってあんまりにもスガさんに似合わない言葉だったから。校門を出て歩き出す。 何笑ってるの、とわたしの後ろを歩いて追いかけてくるスガさんがむっとした調子で言ってるのが解る。だけど、ちょっと拗ねた様子さえ可愛らしく見えるのだからずるいと思う。年上の男の人なのに、女の子より可愛いなんて神様はちょっと不公平だ。 「だって、スガさんは何にもしませんよ」 「…へぇ?」 「いかにも草食系って感じです」 中性的な顔立ちも、その色っぽい泣き黒子も、魅力的でわたしは大好きだけれど、スガさんのどこをとっても高校生男子っていう感じはあまりしない。バレーをやっているときのスガさんは格好いいけど、あれはまた別の話だ。スガさんから男らしさというやつを感じたことはあまりない。 だって付き合い始めてもうすぐ二ヶ月になるけれど、いまだにスガさんがわたしに何かしようとしたことはない。手はわりと繋ぐけど、そこにいやらしさのようなものは一切感じられないのだ。 だからわたしは安心しきっていたのです。 「なまえ」 名前を呼ばれて、振り向く前にスガさんがわたしの腕を掴んでぐっと引いた。わたしは振り返る体勢になって、そのまま。 唇にあたたかい感触がふわりと押し付けられた。 あまりにも突然のことに呆然とするわたしの唇から、伝わる熱はやがて離れて。わたしを見つめるスガさんとようやく目が合う。今まで目を合わせることもできないくらいに顔が近かったことにふと気が付く。 そうして、少し上目遣い気味になったスガさんが、いたずらっぽくにやりと笑った。 「───俺が、何だっけ?」 「、……!」 何も言えないわたしの左手をスガさんがさりげなく繋いで、動かないわたしを引いて歩き出す。初めてのキスだっていうのにスガさんからは何の動揺も見受けられないのだからこっちは動揺しっぱなしだ。 「な、な…、何、」 「短いスカートはいてる方が悪いのです」 「ね、ね、猫かぶり……!」 「いーえ」 そこで前を歩くスガさんはちょっと振り返って、楽しそうに笑ってみせて、そこでわたしはああ、やられたなぁと思う訳です。 「被ってたのは羊の皮です」 愛してあげるからおいで ×
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