「お腹すいたー」 「ねー」 「男子はよくあんな元気がある…」 女子の体育は卓球で、のんびり適度にサボりながら一時間の授業を終えたあとだった。体育は4時限目だったから、つまり今は昼休み。急いで教室に戻る必要もないのでだらだらと友人と二人で体育館を出た。 体育館から校舎へ向かう途中には校庭がある。そこではクラスの男子たちがまだ走り回っているので、呆れるというか感心するというか。そういえば男子はサッカーだった。教室戻んないで昼休みもこのままサッカーしちゃおうぜー、ということになったんだろう。多分お昼ならとっくに早弁している。 「サッカー部以外の連中が多いのもまた、すごいよねぇ」 「少なくともクラスの運動部は勢ぞろいって感じだね」 「体力あんなぁ」 ぼんやりと眺めながら友達と会話をしていたら、「うわ、しまったー!」という叫びがして、こちらへころころとボールが転がってきた。わたしの足元へ落ちたボールを拾う。どうしたものかとそちらを見やると、校庭の真ん中から「ごめん!」と言いながら菅原が駆け寄ってきた。 「ほい。元気だね」 「え?」 「体育やったあとでまだ運動できるなんてすごいよねって今話してたの」 「はは、これでも一応運動部だしね」 ありがと、と菅原はわたしの手からボールを受け取って笑っていたかと思うと、急に何かに気付いたかのようにわたしから目をそらした。心なしか顔が赤い。何だろう、と思っていると菅原が彼自身の腰に巻いていた長袖のジャージを解いて、わたしの肩にばさりとかけた。 「え?菅原、なに、」 「これ、着てて」 「何でよ?」 「いいから」 わたしにかけたジャージを、胸の前でぐいっと閉じられる。暑いんですけど。わたしの抗議の言葉など聞きもしないで、菅原は困った顔をしていた。やっぱり、顔が赤い。運動なんかしてるから、熱が出たのかもしれない。可哀想にと思う。 ぼんやりと菅原を見ていたら、ふと菅原がちらりとこちらを見た。困ったような顔をしている。少し言いづらそうに口を開いた。 「あのさ」 「うん」 「体操着、薄いんだからもっと気を付けた方がいいよ」 「?だからさっきから何のこと、って、いたっ!」 菅原がわたしのおでこを急に指で弾いた。そのままボールを抱え直す。何すんの、と文句の一つも言う暇もなく、「それ、ちゃんと着てろよー」とそれだけを言い残して彼はまた校庭の真ん中へ帰っていった。 取り残されたわたしは一人、ぽかんと口を開けるばっかりだ。 「何だったの、今の」 「あー、菅原も男だったんだなぁってわたしは思ったわ…」 「はぁ?」 「なまえ、体育ある日に黒はだめでしょー」 「え?な、あっ」 「気付いたか」 「さ、先に、言って、よ!」 友達の言葉に自分を見下ろすと、体操着からうっすらと下着の線が透けて見えていた。慌てて抗議すると友達は「あんたそういうの気にしなさそうだったから」と愉快そうにけらけら笑っていた。信じがたい。 そう思うとさっきの菅原の態度にも、納得がいった。納得がいったと同時に死にたいくらいの恥ずかしさが襲ってくる。なん、何だよ、菅原の、ばか。そこは知らないふりでもしといてよ。ばか。肩にかけられたままだった菅原のジャージをきちんと着込んだ。わたしのよりもかなり大きい。ちらっと校庭を見るとさっきと変わらずに菅原はサッカーをしていて、何だかもう。ばか。 「……暑いんですけど」 メルトダウ ン ×
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