ハローミスターマイハニー | ナノ
「あ、麦茶だ」
「最近夏みたいでしょ、そろそろそんな季節かと思って」
「暑いもんな。一杯ちょうだい」
「まだ冷やしてないからぬるいよ」
「いいよ」

台所で沸かした麦茶をボトルに入れ替えていたらちょうどお風呂から上がったスガくんが近寄ってきた。
グラスを一つ取って、こぽこぽとやかんから直接注いであげる。スガくんはそれを受け取って、ぐいっと一気に飲んだ。「うまい」と笑うスガくんの髪の毛から、ぽたりと水滴が垂れる。

「髪の毛」
「ん?」
「乾かしてないでしょ。わたしには口うるさく言うくせに」
「ああ、うん、ごめん」

わたしがお風呂から上がったあとはひたすら「ちゃんと乾かさないと風邪ひくだろ」とぶつぶつ言うのに、スガくんはなぜだか自分のことには無頓着だ。よくないと思う。自分こそ風邪をひいてしまう。

わしゃわしゃとスガくんの肩にかかっていたバスタオルで頭を拭いてあげると、スガくんは嬉しそうにゆっくり目を細めた。

「スガくん、背が高い」
「はは、それはごめん。これでも小さい方だったんだけど」
「バレー部の常識を普通だと思わない方がいいよ」

少しだけ背伸びをして、スガくんの頭のてっぺんらへんまで。いつもとまるきり逆だ。髪の毛、拭いてくれるのすきだけど、拭いてあげるのもすきだなぁ。

今日のスガくんはどうやらちょっと眠たいらしい。気持ち良さそうに表情をゆるめる姿が、何だか少し、猫みたい。ずいぶんおおきい猫だなぁとくすくす笑っていたら、スガくんの大きな手がふとわたしの手首を包む。

「?なぁに、」

不思議に思って言いかけた言葉は遮られてしまって、だってやっぱり目を細めたスガくんが急にキスを落としてくれたから。突然どうしたの、とか聞いてもよかったけど、やめた。三回、啄むようなキスが降ってきて、わたしはゆっくり目をつむった。


「…麦茶の味がする」
「おすそ分けしてあげました」





やさしい奇跡を教えてよ




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