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みょうじなまえが言うことには、出会いと別れはおんなじことなのだという。彼女が唐突に始めるそういう結論の出ないような話を聞くのは俺の仕事で、役割で。その二つの目は普段何を映してんのかなぁって、いつもそればっかりが気にかかる。

「別れは出会いの一貫だよ。だってそうでしょう、出会ったときからいつか別れる日がくるのは決まっているもの。出会いと別れはイコールだと思う」
「…じゃあ、なまえは、いつか俺とも別れるつもりなんだ」

俺がそう言ったら、彼女はそうだねと一つうなずいて、それから、さみしいねと小さく笑った。

儚い。いつも俺は繋ぎ止めておきたくて、困る。愛しいひと。いつだって手を離したらすぐにどこかへ行ってしまいそう。細いその体を抱き締めるといつも、痛いよと笑われる。だってそれくらいしないと、確かめられない。ちゃんと君がここにいること。

解っている。

俺たちは永遠じゃない。永遠なんてどこにもない。だっていつのまにか大人だった。永遠に続くと思っていた放課後だって、いつのまにか終わっていた。だから、もう、全部知ってる。初めて死を実感して怖くて怖くて眠れなくなったあの頃の自分はもういない。いつか君は死ぬ。俺も死ぬ。どれだけ一緒にいようねと言ったって、一緒にいたいと願ったって、だって死ぬときは一人だ。ちゃんと知ってる。彼女の言うことが理解できない訳なんて、ない。もう子どもじゃないから。

「こー、し」
「…うん」

堪らなくなって抱きしめたら名前を呼ばれた。君のその、甘ったるく俺を呼ぶときの声がすきだよ。ちゃんと口に出して伝えたことなんか一度だってないけれど。

さみしいね。さみしい。一緒に死ねたら、よかったね。でも多分俺は君が死んだとしても生きていくよ。君もそうだろ?だって俺、お前が来たら怒るよ。例えば俺が先に死んだとして、お前が追いかけてきたとしたら、俺、怒るよ。多分お前も怒るだろ。怒られたくないな。だからね、多分、というか、絶対。俺たちは別れがきたとしても生きるよ。生きていくよ。そういう風にできてるんだ、きっと。

「孝支」
「うん」

もっと呼んでほしくて、だけど黙っても、ほしくて。すきだ。すきだよ。別れたくなんか、ないなぁ。だけど何があってもいつかさよならがくる。だって、出会ってしまった。出会いたくてここまできて、そうして、出会ってしまった。

痛いよ、っていつもみたいに君が笑うから、俺もいつもみたいにごめんねって笑う。だけど。ねぇ、ごめんね。離せない。今だけは。体温。こんなに、細い体だけどちゃんとあったかい。足りない何かを分け合いたくて抱き合っているのに、どれだけ抱きしめても足りないような気がする。伝わりきらない。すきだ。ねぇ、すきだよ。ちゃんと、届いてる?

触れていたい。確かめていたい。
せめて今だけ、俺が触れている間だけは生きていて。誰よりもそばにいたい。いつか死んでもいいから。今、この瞬間だけ。頼むよ。約束。絡めたい小指。でも君を抱きしめるこの腕をどうしても離せずにいるんだ、おかしな話だろ。

「孝支、」
「…黙って」

低く囁いて三度目の俺の名前を黙らせて、その額にひとつ、キスを落とす。それから頬に、髪に、鼻に、目に、唇にも。いとしい。君がすきだよ。こんなもんじゃ足りないな。何をしても、足りないな。多分世界中の愛の言葉をささやいても足りなくて。すきで、すきで。本当に。伝わんないよ。俺がどれだけ君をすきか、きっと君に伝わりきらないよ。

「すきだよ」

だけどやっぱり口から零れ落ちたのは笑えるくらい陳腐な言葉で、少し情けなくなる。それでも俺の腕の中で、君が、笑うから。わたしも、ってその一言が俺をどれだけ舞い上がらせるかなんて、知らないだろ。

すきだ。すきだよ。


いつか必ず死ぬ、君が、いとしい。



拡散する宇宙に点在するひみつ


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