もうこの年になると、ただの平日だよ、って、笑ってたけど。それも、まぁ、わかるけど。そういう年に、なってしまったけど。今日は、スガくんのお誕生日だ。

目の前ですぅすぅと寝息を立てるスガくんの長い睫毛。その一本一本ですら愛しいなんて、そんなのは、どうしたらいいんだろうね。わたしの前で、安心しきったような顔をする君のことが、わたしは、とても、可愛い。守ってあげたいなぁ、と思う。母性みたいだ、変な話。

健やかに眠るスガくんの顔は、出会ったばかりの頃と比べると、年を重ねてきたことを実感させる。いつまでもつやつやでつるつるで童顔だけど、それでも。この前、高校生の頃のスガくんを写真で見て、真っ先に「幼い」と思った。ずっと童顔のままだね、変わらないね、若いね、と思っていたのに、高校生のときのスガくんは、わたしが普段接しているスガくんよりも、随分と幼かった。普段過ごしてると気付かないけど、それでも。ひとつひとつ、時間を重ねてきたんだよなぁって思う。

「……ん、」

スガくんが身じろいだから、ぱさりと前髪が彼の目にかかる。それを、そっと掬ってやる。耳にかける。かわいいねぇ。ついでに、そのほっぺたに手の甲で触れる。眠っているスガくんを見るのは好きだ。幸せな気持ちになる。

ふぁぁ。あくびがひとつ。そろそろ眠たくなってきたかも。今日はスガくんの誕生日だったからって、ちょっと張り切りすぎたみたい。プレゼント、喜んでくれてよかったなぁ。おやすみ、スガくん。スガくんから手を離して、わたしも眠りにつくために布団にもぐり込もうとした。ら。
ゆるゆると伸びてきたスガくんの手が、わたしの手首を掴んでそれを止めた。

「ごめん、起こした?」
「…んー、」

小声でたずねるけど、曖昧な返事が返ってくる。わたしの手首を掴む指には、ほとんど力が入っていない。ゆるゆるの握力。覚醒してない証だ。寝ぼけた、舌足らずの声。

「…なにしてたの」

ぼんやりとしたひらがなの発音が、かわいい。まぶた半分開いてないし。いつもの完璧なスガくんじゃない、気の抜けた顔がかわいくて、かわいくて。この、どこかまぬけで、格好よくないスガくんは。みんなが知らない、わたしだけの、スガくんだ。

「見てた」

そう言ったら、ええ、やめてよ、とやっぱりむにゃっとしたままの声で答える。いやいやと体を少しよじりながら。幼いこどもみたいだ。さっきとは、真逆のことを考える。スガくんは、出会ったときと比べると、大人っぽくなったし、こどもっぽくなった。わたしの前だけでこどもっぽいスガくんが、わたしは好き。好きだ。かわいいし、愛しい。

「………へいじつだっていったけど」
「ん?」
「でも、うれしいよ」

ああ、そういえばそういう話もしたなぁ、と思いながら、スガくんを見つめる。誕生日は、いつの頃からか、こどものときほど特別な日じゃなくなってしまった。だけど、それでも、特別な日にしようとすることはできる。美味しいごはんとか、プレゼントとか、そういうもので。スガくんもそういうことを考えているのかなぁ、と思っていたら、スガくんは眠たそうなまぶたをそのままに、すり、と身を寄せてきた。掴んだままのわたしの手に、頬をすり寄せる。まるで猫みたい。安心しきったその姿が、やっぱりかわいい。

「なまえがいっしょにいてくれるから」

寝ぼけたスガくんは、素直さに拍車がかかる、ような気がする。ってかまだまぶた半分くらい開いてないし。ずるい。わたしは君と違って寝ぼけてないから、ふつうにちょっと、照れくさかったりするよ。でもまぁ、しょうがないね。今日は君の、大事な大事な君の、お誕生日たからね。

「…おたんじょうび、おめでと」
「ありがと」

こんなこと、どうせこの人、朝には覚えてないんだろうなぁ。もう寝てしまおう。そう思って毛布を被ろうとしたら、スガくんのてのひらがゆるゆるとわたしの後頭部に回ってきた。ぜーんぜん、力入ってないけど。仕方ないから、引き寄せられてあげることにする。

キスをする間、ゆっくりとわたしの頭を撫でるてのひらが、好きだ。それはなんだか、スガくんの優しさそのものみたいな気がする。こどもみたいに高い体温。ああ、これも、わたしだけのスガくんだ。だけど、想像よりも厚くて硬いてのひらが、スガくんもおとこのひとなんだってことを実感させる。

三度目の熱が、唇に触れる。これも、朝になったら忘れてるのかなぁ。でもまぁそれも、仕方ないね。誕生日だからね。朝になったら、また思い出させてあげることにするから。そっと目を閉じる。お誕生日、おめでとう。




// どうかやさしいゆめをみておいで
2019.06.13





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