小説 | ナノ ※未来設定(現在の原作軸から1年後)

※原作とは異なる展開が見受けられますが知らないときに書き始めたからであり、原作を否定するような意図は一切ありません

※田中視点



「月島先輩!!」
「…君さ、毎日よく飽きないよね。いっそマネージャーにでもなればいいんじゃない」
「えっわたしにいつでも傍にいてほしいってことですかやだもう先輩!照れます!」
「嫌味だよ解るだろ馬鹿なの」

部活の休憩時間、そうやってぎゃあぎゃあ騒ぐ姿はもう見慣れたものになってしまった。一つ下の生意気な後輩と、その周りをうろちょろする女の子。ある日突然体育館へやってきて、呆気にとられる部員たちの面前で「好きです月島先輩!」と堂々と告白してみせた時から毎日、みょうじちゃんは体育館に顔を出し続けている。月島に思う存分ちょっかいをかけたあと、ドリンクを作ったりコーチを手伝ってタイムを計ったり球出しをしてから、帰っていく。それが毎日の習慣だ。

潔子さんが引退なさって以来、女子マネージャーのいなくなった烏野男子バレーボール部にとってこの一年生の存在はかなり貴重で、俺たちはもちろん、どうやらコーチも武ちゃんも彼女のことを気に入っているらしい。これでいてマネージャーではない、ということの方が信じがたいが、それは事実なのである。

「だって部内恋愛は禁止でしょう?」

部員とマネージャーが付き合っているといろいろやりづらいでしょうし、というのが彼女の言い分だが、月島と彼女は別にまだ恋人同士でも何でもないというのだからみょうじちゃんもなかなかいい性格をしている。

ちなみにその発言に月島はありったけの軽蔑の念を込めて眉を顰めた。「有り得ないんだケド」と吐き出された言葉を聞いた彼女は、しかし、笑ったという。「はい!わたしはマネージャーにはなりませんから、部内恋愛は有り得ないのでご安心ください!」
 ここまでくると、もはや恐れ入る。

「月島先輩の好みのタイプってどういう女の子ですか?」
「うるさくなくて簡単に人のこと好きだとか言ったりしなくて毎日呼んでもないのに勝手に部活に来たりしない子」
「月島先輩って実はわたしのことめちゃめちゃ意識してますよね!」
「え、意識って何?害虫として?君がいちいち僕の周りをうろつくからデショ」

これくらいの暴言なら日常茶飯事にも関わらず、みょうじちゃんはめげない。それどころか楽しそうに笑っている。

…可愛いんだよな、これが。我ながら陳腐なたとえだとは思うけれど、花が咲いたような笑顔っつーか。何言われてもみょうじちゃんは笑っている。時には恐ろしいなとすら思ってしまう、そのポジティブ精神。

こんだけ可愛い子がどうしてよりによって月島なんだ。バレーボール部にはもっといい男がいくらでもいるっていうのに(たとえば俺とか、俺とか、俺とか)。縁下にそう言ったら「ああ、うん、まぁ、顔の差じゃない?」と言われた。やんわりとした口調で、ストレート豪速球が飛んできた。泣いていいか。

「あっ今日は月島先輩のためにクッキー焼いてきたんです!はいどうぞ!」
「…頼んでないんだけど」
「そんなこと言いつつ鞄にしまってくれるその優しさが大好きです、って、あ、いたっやめて下さい頭掴まないでください」
「クッキーに罪はないから」

月島はそのでかい手でみょうじちゃんの頭を覆って、ギリギリと締め付けるように掴んだ。いたいですいたいです、と訴えるみょうじちゃんも、だがしかし本気で苦しんでいるというほどではなさそうなので、月島も多少の加減はしてやっているんだろう(当たり前だ。バレーボール部レギュラーの男が本気で握り込んだりしたら大変なことになっちまう)。実際クッキーを貰って多少は喜んでいるであろう月島がみょうじちゃんに強く出られないのも当然といえた。
月島が顔に似合わず甘党であるということはいつのまにか部員全体に知れわたっている事実である。

「しっかしみょうじちゃんも毎日毎日よくやるよな」
「な!」
「…先輩……」

溜息のように吐き出すとノヤっさんが深く納得したように何度も頷いてくれた。月島は月島でいかにも嫌そうな目付きを俺たちに向ける。うんざり、背後にくっきりとその文字が見えるような表情。月島、おまえって本当に生意気だよな。

「だってよー。月島、おまえも気になるだろ?みょうじちゃん、この性格悪男のどこがそんなにいいんだよ?」

先輩特権、ってヤツだ。迷惑そうな月島をよそにみょうじちゃんに訊ねてみれば、彼女はそれはもういい笑顔で頷いた。

「はい、確かに月島先輩は性格が悪いんですけど」
「ねぇ、喧嘩売ってるの?」
「でも、そういうとこも、可愛いんですよ」

ぴたり。そうしてゆっくり笑ったみょうじちゃんに、一瞬誰もが言葉につまって。馬鹿みたいに綺麗な笑顔だった。柔らかく、慈しむような表情が、大切そうに落とされた言葉が、彼女のすべてが、月島を好きだと言っていた。

月島は目を丸くして、それからみょうじちゃんから目をそらした。みょうじちゃんのことは見ないままで手を伸ばす。ギリギリと、さっきまでとおんなじように、彼女の頭を掴んで締め付けた。痛いです!とみょうじちゃんの口からまた、抗議が上がる。月島はその声に、ちらりと彼女を見やってから呟いた。

「……生意気」

ぽつりと落とされた言葉がいつもとは性質が違うことくらい、気付かない訳にはいかない。いつもの行為。彼女を締め上げる左手。それが照れ隠しだってことくらい。
全部わかってしまうのだ、これでも、可愛いコウハイなもんだから。

何だよ、縁下め、話が違うじゃねぇか。多分みょうじちゃんは顔だけでコイツを選んだ訳じゃない、最初っからきっと俺じゃあ駄目だった。

思わず溜め息を吐いた。何だよ。何だかんだ、お似合いなんじゃねぇの?お前ら。お揃いのようにお互い顔を少しだけ赤くしている後輩二人を見ながら思う。勝手にやってろ。早いとこ、幸せになっちまえ。二人でさ。後輩思いのセンパイが思うことなんてもうとっくにそれだけだ。馬鹿野郎。



メランコリック彗星


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -