おお振り | ナノ
「ん?どうした?」
私が見つめていた和さんが振り返り「大丈夫か?」なんて気遣ってくれる。
「いえ、大丈夫です」
私はただただ、和さんの広い背中を見つめていた。高い身長にしっかりとした肩。
思わず飛びつきたくなってしまうのだ。
「本当に大丈夫か?」
そんな衝動を必死に抑えているだけである。
「はい、ご心配ありがとうございます」
「そうか、無理すんなよ?」
ぽん、と私の頭に手を置き、和さんは背を向けた。
いつからだっただろう。これが尊敬ではなく、好意に変わったのは。自然と先程の出来事を思い出してうっとりとする。
「おい、」
「あ、準太」
「いきなり真顔になるなよな」
折角和さんに釘づけだったのだ。
準太には愚痴という名の自慢をプレゼントする。あ、準太がげんなりしてきた。ざまあみろ!
「それよりさ、お前。気持ち悪いぞ」
「は?」
全力で睨んでやれば準太は苦笑いをして私の顔を指差した。そうか、準太が言っているのは私がにやけていた時か。それは変な人だ。
「でも、和さんに触れたり話したりするとああなるのよ」
「それって一歩間違えたら不審者だぞ」
「しょうがないじゃない、それ程和さんが好きって事!」
準太に乙女心が分かってないなあ、と呟き再度和さんに目を向ける。
「あ、れ?」
いつの間にか和さんは私の視界からは消えていた。
「ねえ、準太。和さんが居ないんだけど」
そして、準太に話し掛けようと振り向き、息を呑んだ。
「ん?俺を探してたのか?」
「和、さん」
そんな馬鹿な。普通に後ろに居た。そのまた後ろにはニヤニヤと笑う準太や慎吾さん。畜生!はめられた!いつから居たのかなんて聞かなくても解りきってる。最初からだ。
「え、あ、好きです」
「ああ、知ってる」
さらば、私の青春なんて乙女思考にさようならを告げていれば和さんはほら、と両腕を広げた。
「え、?」
「背中の方がよかったか?」
「いえ、両方大歓迎ですっ!」
君の胸へダイブ!
(あー、落ち着く)
(和さんってお父さんみたいですよね!)
(そうか?)(じゃあ、子供でも作るか?)
(いやいやいやいや、和さんキャラおかしいですって!)
(どこ触ってるんですか!)
10/12/10
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