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「人間ってなんで生きてるんだろ」

大雨洪水警報。雨の音だけが響き静寂が生まれる。俺が仕事の日はいつもそうだ。決まって雨が降っていて晴れというものを経験したことが無い。所謂雨男らしい。そんな五、六日前から降り続く雨を眺めながら彼女がそう漏らした。

「さあな」

俺の仕事は調査対象である人間を一週間にわたり観察し死を見定める事だ。人間界では死神と呼ばれる。鎌を持っているだとか薄気味悪い雰囲気を背負ってると思われがちだが、実際人間と変わりはない。容姿は仕事によって変わるがそれ以外は人間と同じだ。唯一ミュージックに強い執着を持っているのが一般の人間との違いかもしれない。

「千葉さん」
「何だ」
「死って何か知ってる?」

横に居る彼女が今回の仕事の対象。年齢は十八歳だったか。どことなく大人びているのがここ数日で分かった。彼女は明日その短い生涯を終えることとなるだろう。まだ決断はしていなかった。すぐ「可」を記せばいいものの俺はミュージックをギリギリまで楽しみたかったのだ。

「無になることじゃないのか」

俺は適当に前に会った人間の答えを言った。確かそんな事を死の間際に言っていた気がする。そして、人間には二種類居る。俺達が仕事で寄り付くと自分の死を悟る者。何も気にせず普段通りに生きる者。彼女は前者だった。俺が一日目に関わった時も「待ってた」なんて嬉しそうに笑った。

「じゃあ、存在も消えてしまうのかな。私が生きてきた十八年間も親と過ごした数年も。学校の友達も私の事忘れて大人になっていく。私が死んで悲しむ人居るのかな」

彼女は毎日同じことを言う。俺は返答もせずただ、耳を傾ける。

「私が死んだら千葉さんが悲しんでくれれば私は幸せです」




俺は調査用紙に「可」と記した



次の日、彼女は俺に見届けられて死を迎えた
彼女の笑顔には何が隠されていたのだろう




11/05/16 死神の精度

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