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「怖いんですか」

びくっと肩が跳ねた。宮田先生はじろっと私を見て口角を上げた。なんて恐ろしい笑顔!宮田先生と二人きりだという事実が私を更に緊張させた。背中に嫌な汗が溜まって気持ちが悪い。

「怖くないですよ」

夜の当直なんて。と無理に笑った。無理やり笑った私はきっと変な顔をしている。看護師としてこの村へ帰ってきた私は都会での夜の当直経験は無かった。ずっと番は回ってこなかったのだが、今日は美奈さんが出れないということで私が引き受けることにした。心細い私に気を利かせて美奈さんは宮田先生を呼んでくれたのだ。実際気まずくてたまらない。宮田先生は私をじっと見た。きっと心の中が見えているんだ。

「病院って怪談話が多いですよね」

宮田先生が面白げに言う。それとは逆に私は青ざめる。だから嫌なんだ。怖いんだ。慣れとはいうけれど初の当直だ。初の夜の病院だ。それに、宮田先生が横に居る。尊敬もしているし違う思いも渦巻く私には荷が重すぎる。先生が隣に居るだけで心拍数が上がるというのに!

「黎さん、行きますよ」

懐中電灯を手に宮田先生は立ち上がった。私も急いで立ち上がる。これも仕事これも仕事。ドアを開ければ真っ暗だった。宮田先生の後ろを歩く。物音一つしない病院内にカツンカツンと二種類の足音が響いた。足音がよく響く廊下は何ともいえない雰囲気が漂っている。これは怖い話が好きな人にはたまらないのかもしれない。

「ひゃ、!」

つまずいて小さく声を上げる。これだけで声を上げるなんて怖がりすぎる。梟の鳴く声が異様に響いていた。

「……大丈夫ですか?」

前を歩く宮田先生が立ち止って振り向いた。私は体制を整えている最中だった。宮田先生が鼻で笑ってまた前を向いた。そのまま何事もなかったかのように歩を進める。

「み、宮田、先生!」
「なんでしょう」

先程からつまずき続けている私だ。これは暗いからだと言い訳しておこう。しばらくして恐怖のゲージが満タンになったところで宮田先生に声をかけると振り向きもせず返答が返ってきた。

「こ、こわいので、掴まってもいいですか?」

私は前を歩く宮田先生の白衣を控え目に引く。

「そんなんでいいんですか?」



いわゆる恋人繋ぎ



宮田先生の言葉を理解する前に指が絡められた。必然的に私は宮田先生に引かれて横へと移動しており、横目でちらっと宮田先生を見ると少し照れている様子が伺える。私ももちろん照れていて真っ赤に染まっているだろう。
恋人繋ぎは見回りが終わる瞬間まで続いていて、私の冷たかった手が宮田先生と同じ温度へと染まっていた。


11/07/15 警報

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