やっばい大根買うの忘れた。大根おろしは外せないのに。ついでにりんごでも買ってこようかな。財布を片手に外へ出た。さて、先程のクロの電話でついうっかりマネージャーやってやらない事もない、なんていっちゃったけどどうしようかなぁ…合宿中のマネージャーくらいならいいかなぁ…。むーん、と唸っているとトン、と人にぶつかってしまった。

「あ、ごめんなさ…あれ？木兎？」
「あー！結ちゃんじゃん！」

ジャージ姿の木兎だった。両手には大量のスポーツドリンク。「いやー練習試合なのにマネージャー2人とも休みで参っちゃうよナー」どうやら買い出し係のようだった。練習試合何処でやってるの？近くの体育館。汗だくの木兎を見てうーん。と悩んだ。

「木兎、終わったらアイス奢ってハーゲン」
「は」
「このわたくしめが1日限定梟谷のマネージャーをやってあげよう」
「！マジで！！」

ちょっと待ってて！と木兎は何処かへ行ってしまった。え、何。仕方なくその場で待つと数分後、木兎は戻ってきた。

「はい！ハーゲン！！」
「マジか」

先払いだったようだ。終わったらもう1個かってやる！と木兎は笑いながら私の頭を撫でた。お兄ちゃんだ、お兄ちゃんが居る。「ちょっとダッシュで着替えてきます」「え、そのままで大丈夫じゃない？上着なら梟谷のジャージ貸すし」しまった…上Tシャツで下ジャージだった、女子力の欠片もない！丁度良かったと開き直ろう。
ハーゲンを食べながら、木兎と体育館へ向かう。ハーゲン美味しい。

「そういえば今日の練習試合って？森然？生川？」
「んー」

ズズズズ、木兎が重い体育館のドアを開ける。

「なんと、宮城から来た青葉城西高校！」

あ、すいません。すごく帰りたいです。空になったカップを片手に、呆然と白が映えるユニフォームの人たちを見た。マジですか。そんな私の状況なんて露知らず、木兎は「スポーツドリンク買ってきたー！あとマネージャー捕まえてきた―！」と大声を上げた。馬っ鹿！馬っっ鹿！！木兎の馬鹿！！！！

「え」

小さい声が耳に入った。先には目を見開いた国見君。あ、及川も居る、超間抜け面。青城メンバーに声を掛けられるが先に、赤葦くんに声を掛けられた。

「え、マネージャー捕まえてきたって…孤爪さんじゃないですか」
「はろろーん、赤葦くん久しぶりだね」
「お久しぶりです。…無理矢理木兎さんに連れてこられたんじゃ…それに音駒は」
「マネージャーに関してはばっちり買収されたから平気。あと音駒は逆に宮城行ってるよ」

さてさて、何すればいい？ドリンク、買ってきた分じゃどうせ足りないだろうから作ってくるよ？マネージャー居なくても、道具くらいは持ってきてるでしょ？…じゃあすいません、宜しくお願いします。と道具一式渡された。よし、目が合わないうちに逃げる。「練習試合、はじめまーす！」と聞こえて、私は一安心した。
…安心はした、が延々ドリンクを作ってるわけにもいかない。しかも今作ってるの、勿論青城分も含まれているんだよね？で、私マネージャー。青城に渡しに行く理解。溜息を吐き、重く肩にのしかかるドリンクの籠を持ちあげる。腹を括るしかない。

そっと、体育館へ戻る。「はい、これ梟谷分のドリンクね」あっざーす！！と元気な返事。さて。

「すいません、青葉城西高校さんの分のドリンクなんですけど」

おお、すまない。助かる。とあちらの監督さん。私の仲が良かったメンツは全員コートの中だった。助かった。てか国見君も金田一君も1年でレギュラー？すごいなぁ。

「こちらにマネージャーが居ないので助かるよ」
「え、私梟谷の生徒じゃないんですよ。梟谷の主将と知り合いで、お手伝いに来ただけで」
「ほぉ？では高校は」
「……音駒です」

ぐいぐい来るなこの監督さん。学校名を言いたくはなかったんだけれど、仕方なく小声で行った。それでは仕事がありますので失礼します。と青城から遠ざかった。
スコア付けるよー、と梟谷1年生からバインダーを受け取る。「ヘイヘイヘーイ！赤葦パスパース！！」相変わらずだなあの人。この試合中にしょぼくれ木兎にならないように願おう。

「さて、可愛い可愛い結ちゃんが見ているわけだし？こっちも全力で行こうか」

はっ、と息を飲んだ。及川の視線が、真っ直ぐに私を射抜いていた。顔は笑っているけど、目は笑っていない。はははは、と最早乾いた笑い声しか出なかった。国見君は少し、複雑そうな顔をしていた。






「すさまじいな、これ」

ベンチに座っている全員がその試合に見入っていた。フルセット、デュース。さっきから点取り合戦だ。練習試合なのに、体育館がすごい熱気だ。及川も、木兎も化け物みたいだ。私、国見君があんなに動いてるの、はじめて見たかも。赤葦君も、いつもクール顔決めてるくせに、今日はえらく必死だ。

「いやー…いい試合だねぇ」
「あ、青城の監督さん」

少し、顔が引き攣る梟谷と青城の監督。こそこそと話しだす。何かと思えば「こんな質のいい試合出来るのはすごくいい事なんだけどねぇ…そろそろ…」ここで理解する。あ、新幹線の時間。
得点板を見る。デュース、梟谷が優勢。うん。ごめん。先に謝っておく心の中で。「赤葦くーん」と小さく声を掛ける。アイコンタクト。ぐっと親指を立てると彼は頷いた。読める子だ、赤葦君。

「きゃー！ボクトサンエースーカッコイイー！超猛禽類ィー！」
「俺エースゥウウウウウウ！！」

絶妙のタイミングで赤葦君がトスを上げる。高さ、スピード完璧。そしてテンションMAXの木兎。負ける要素皆無。木兎のスパイクが、相手のブロックを打ち砕く。
38-36
勝者、梟谷高校。

若干、全員からの視線が痛い。

<< | >>