「はは、グッドタイミングなのかバッドタイミングなのかわかんねぇな。なぁ、研磨」

俺を見て、音駒の主将は笑った。「お前、トビオだろ?」という主将にただ頷くだけだ。

「えーっと、苗字なんだったっけ」
「立花」
「そうそう、立花だ。立花結って知ってるだろ?」

2年だか3年前に突如目の前から失踪した先輩の名前が出てきて、吃驚した。なんか、久しぶりに聞いた。そういや、最近全然連絡取ってないな。なんて考えてると「あれ?結の知り合いのトビオ君じゃねーの?」と首を傾げるので「あ、その飛雄で合ってます」と答えた。

「お、合ってたか。しかし…あいつの可愛い基準がまるでわからねーな。噂のトビオ君、研磨、夜久」
「え、やっぱり俺も入ってんのそれ」
「夜久、いいじゃん?見た目は良いんだし。中味はあれだけど。役得とでも思っておけば。俺なんか抱きついていいんだぜ?っていうと死ねって言われるから。研磨にも」
「俺は死ねとまでは言ってない。ただ結に近づくなって」
「シスコンめ…」

…?よく話が見えない。音駒主将が俺の様子に気づいたようでああ、悪い。と声をかけた。

「どうせあいつのことだから、話してないんだろ。宮城の連中には連絡先殆ど教えなかったって聞いたし。コイツ、うちのセッターの孤爪研磨。立花結改め孤爪結の弟な」
「…?」

あいつ、弟なんていたのか?そもそも苗字が孤爪?と首を傾げていると菅原さんが「再婚な、たぶん。立花さん?のお母さんとあっちの孤爪のお父さんが」と耳打ちしてくれて理解した。そのための引っ越しだったのか。じっと音駒セッターを見る。そっと、目を逸らされた。

「苦労してそうっスね」
「…え」

だって、あいつの守備範囲なんだろう。抱きつかれるは撫でまわされるは…甦るあの日の記憶。

「べつに…なんで?」
「あのスキンシップに堪えうるのは研磨くらいだってことだな」

孤爪研磨と呼ばれるあいつの弟は首を傾げた。




▽△▽


「なぁ、結って昔からあんなやつなの?可愛い可愛いって男子に抱きついて頭撫でまわすあれ」
「…まぁ、そうっすよ」

長引いてしまった練習試合が終わり、コートの片づけをする。ちょうどトビオ君とやらが居たので捕まえた。あいつの話、聞きたいし。研磨にも聞かせようと思ったら既に逃げていた。トビオ君の事が苦手らしい、人間として。「結がだいすきなトビオ君」に嫉妬して、だったら面白そうだったのになァ。

「他に居なかったのか?犠牲者」
「…国見も、可愛い可愛いって撫でてたな…。嫌がってたんで、抱きついてはいなかったんですけど」
「そりゃ、普通の反応だよな」
「俺が止めろって言っても全然聞かなかったくせに…」
「大分気に入られてるじゃん、トビオ君?」

えーマジナイワーって表情をされた。なんだ、こっちは脈なしか。つまらん。修羅場でも起きないだろうか。国見君とやらはどうだろうか…って俺暇人かよ。でも気になって仕方がない。

「クロ」
「お、研磨」
「あんまり結で遊ばないで」

それだけ言うと、研磨は走り去った。

「あいつも結にべったべただな」
「マジあいつに付き合ってられる人間が居るなんて信じらんねーんスけど」

どんだけだよ。

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