「してやられた」

練習試合へ向かう当日、結を騙して一緒に連れて行こうかと思っていたがまんまと逃げられてしまった。くっそ、帰ってきたらどうしてやろうか…。朝から電話をかけ続けているが、どうやら電源を切っているらしい。自宅に掛けたら孤爪夫妻に迷惑だし、お手上げだ。

「クロ、あんまり結にちょっかい出さないで」
「否だってあいつめっちゃ仕事できるじゃん。バレーのルールも大方分かってる感じだし、昔バレーでもしてたんじゃねーの？もしくはマネージャー」
「今やってないんだから関係ない」
「…研磨、体育館に結が居たら良いと思わないか？」
「リエーフあたりに絡まれそうだからヤダ」

この姉弟を落とすのは、中々難しいようだ。家でベタベタひっついているから、部活まで一緒でなくても良いってか。羨ましい奴め。ちなみに研磨は結母と、結は研磨父とあまり仲が良くなっていないらしい。この前研磨父に泣きつかれた。結ちゃんが懐いてくれない、と。ご愁傷様です。あいつは年下にしか興味無いっすから。実と息子を羨ましがる研磨父が少し不憫に思えた。

『ちがうよ、私の守備範囲は可愛い子だよ。勿論女の子も含めて』
「今新幹線乗ってるから電話してくんなよ！」

慌ててデッキへ向かう。こいつ、電車に乗ってる時刻を狙って電話してきやがったな…。というかなんで考えてる事ばれてんだよ。こえーよこいつ。

「お前なぁ」
『あ、夜久君も守備範囲デス』
「最近夜久に冷たい目で見られてるの、気づいてるか？」
『気のせいだと割り切るよ』
「ポジティブも考えモンだよな…」

夜久、まあ頑張れ。

「帰ってきたら覚えてろよお前」
『今日秋刀魚焼こうと思ってたんだけどなー。しかも割と良い秋刀魚。しかも黒尾家今日誰も居ない』
「……」
『そうだな、次ある合同合宿では手伝ってやらない事もない。私の機嫌が良ければ』
「…今回は見逃してやる」

こいつに勝てる日は来るのだろうか。






「結なんだって？」
「今日の晩飯、秋刀魚焼くって」

クロ、結言い包められてる。まぁ口喧嘩でクロが結に勝てるわけがないんだから。スマホアプリで暇をつぶしながら、そんな事を思った。

「あ、でも合同合宿では手伝ってやらない事もないだってよ」
「それ、やらないやつだよ」
「いいや、今度は絶対引き摺ってでも連れていく」

不毛な攻防戦はいつまで続くのだろうか。「研磨、お前からも結に頼め。お前の言う事だったら多少聞くから」というクロに「考えとく」と返事を返した。最近、結はバレー部に顔を出さないからちょっと寂しかったりする。でも、来たら来たで一部部員がうるさいからやだ。

「どんだけ独占欲強いの？お前」
「うるさい」
「結の口から良く出る「飛雄」に会ったら、お前どうするんだろうな」
「別に、普通」
「へぇ？」
「俺は、姉で家族な結がすきなの」
「…シスコンの度合いを超えてると思うけどな」

抱きつきはするけど、いや俺からはしないけど。別にキスしたいとか押し倒したいとかそんな感情は湧いてこない。一緒に居て楽しい、それを邪魔されるのが嫌い。結の嫌いなものはキライ、結の好きなものが――
ふと、頭をよぎる。

「夜久君！可愛いなぁまったくもう！」
「ちょ、抱きつくのやめろ！マジやめろ！！」

……。

「別に結が好きなものが好きとは限らない」
「なんの話だ？」

嫌いではないけど、夜久さんのことそんな好きじゃない。普通。

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