息が、詰まりそうになった。

金田一に国見ちゃんひっさしぶりー!元気にしてたー?という無駄に明るい声。約2年ぶりだ。身長も大きくなってこのこのー!と無駄なスキンシップをしてくる及川さんに岩泉さんの鉄拳が落ちた。なんか、こういうところあの人にそっくりだと思う。俺はまず1番に気になってる事を口にした。

「立花先輩って、マネージャーやってないんですか?」

体育館に立花先輩はいなかった。高校に上がってマネージャーをやめてしまったのだろうか。そんな事を考えていたらピタリ、及川さんの動きが止まった。

「結ちゃんねー…居ないんだよ」
「え?」
「結ちゃんね、青城に来てないんだ」

息が止まる。あれ、立花先輩って、青城に、行ったんじゃ。

「俺らもね、結ちゃんは青城に行くって思ってたんだ。自然の流れっていうか、だから誰も結ちゃんの進学先、聞かなかったんだよね。まさか、青城に来る気が無いなんて思っても無かったんだから」

誰も、結ちゃんの居場所、知らないんだよね。という及川さんのセリフに頭が真っ白になった。





▽△▽


呆然とする国見ちゃん。隠してたつもりだろうけど、中学の頃結の事大好きだったもんね。可哀想に、と俺は国見ちゃんの頭を撫でた。





俺が青城に入学したとき、結を探した。が、一向に見つかる気配が無い。仕方なく教師に「立花結さんはどこのクラスですか?」と聞いた時「そんな生徒は入学してない」と返されて頭が真っ白になった。結は、俺達と一緒に、青城に来るとばかり思っていたのに。それが当り前だと思っていたのに。慌ててスマホを取り出し、立花家へ電話をかける。中学の時はまだ、スマホなんて持ってなかったから知っているのは結の家の電話番号だ。

――この電話番号は、現在使われておりません。

身体が凍りついた。結の自宅の電話が繋がらないとは、一体どういう事だ。放課後、俺は岩ちゃんを連れてうろ覚えの結の家を目指す。

「え――」

岩ちゃんも吃驚していた。結が住んでいた家には、既に見知らぬ人間が住んでいた。俺達を覚えていた近所の人が話しかけてきた。慌てて俺は聞いた、結は一体どこに行ったのか、と。

「あら、立花さんのお家?ごめんなさいね、知らないのよ。突然いなくなって」

本当に、なにも言わずに何処に行っちゃったのかしたねー?という近所の人。多分他の人に聞いても、答えは一緒だろう。あまり当てにはしたくはなかったが、結が可愛がっていた飛雄なら、なにか知っているだろうか。

「え、結?東京バナナ買ってくるって言ってましたよ」
「意味わかんないんだけど!え?なに東京なの?東京行ったの?」
「知らねぇっす」
「飛雄ちゃんマジ使えない!」

酷い八つ当たりだ、と飛雄は非難の意を唱えた。なんだよ、飛雄は結ちゃんに会えなくて良いの?というと「連絡先知ってますし」と返された。はぁ!?と俺は飛雄に掴みかかる。岩ちゃんが馬鹿止めろ!と怒鳴るがそんなのお構いなしだ。

「連絡先教えて!」
「え、嫌です。なんで俺の連絡先及川さんに教えなくちゃいけないんですか」
「お前のじゃねーよ!!!」

?と首を傾げる飛雄に「結の連絡先だよ!!この馬鹿!」と怒鳴る。…え、結の連絡先知らないんですか?と言う飛雄に暴言と言う暴言を吐き散らした。自分でも大人げないと思うが、仕方ない。飛雄のケータイを奪い取る。中学生のくせにケータイもってんじゃねーよ!ガラケーだから許すけどね!と意味のわからない言葉を吐き捨て、アドレスから結の名前を探す。

「…お前、ばかなの?」

東京バナナ、と表示されるアドレス。嫌な予感しかしない。「あ、それが結です」あ、やっぱりね!アドレスを俺のスマホに打ち込む。そのまま飛雄のケータイで電話。「ちょ、勝手に使わないでください」という飛雄を無視。プルルルル、プルルルルと電子音が続く。暫くして「…飛雄?飛雄から電話するなんてめっずらしーねー」と結の声が耳を擽った。

「やっほー結ちゃん!誰だかっわかるかなー?」

ブチッ、と電話を切られた。再びコール。出ない。ワンコール、切る、ワンコール、切る。「お前それは嫌がらせだろ…」とドン引きの岩ちゃん。及川さんは超絶怒ってます。出るまで止めない。

『うっさい!及川うっさい!!いい加減にしろ!』
「やっとでてくれたー!」
『出来れば出たくなかったね!嫌がらせかよ!』
「ねぇねぇ、今どこに居るの?なんで青城にいないの?なんでなんで黙ってたの?」
『…面倒な事になるからよ。まったく、飛雄に連絡先教えなきゃよかったなぁ』
「なんで、そんなに」
『家の都合だよ家の都合。どうしても東京に行かなくちゃいけなかったの。こっちもさ、色々忙しいの』

結の声は、確かに疲れているようだった。少し、頭が冷静になる。家の都合、結にはどうしようも出来ない、事情があったとしたら。

「…ごめん。でもね、一言ほしかったなぁ」
『言ったら及川泣くでしょ』
「及川さん結ちゃんだいすきだもん」
『…うっぜ…うんそうだね、知ってる』

うっぜえって聞こえたよ結ちゃんもっとオブラートに包んでよ。なんで俺、結のこと大好きなのに伝わらないかなぁ…。せめて及川さんにもうちょっとだけ優しくしてくださいお願いします。

『一生会えないってわけじゃないしさ、暇になったらそっちに行くから』
「そうなったら及川さんちに泊ってね」
『飛雄の家に泊めてもらうわ』
「なんで!?」
『ねーねー、どうせそこに岩泉居るんでしょ?代わってよ」

えー、でも仕方ない。岩ちゃんにケータイを渡す。飛雄はもうどうとでもしてくれ、と言った表情だった。あ、ごめんこれ飛雄のケータイだったね。

「おー卒業式ぶり。及川が悪いな。…あ?ああ。わかった。そっちも元気にやれよ。じゃ」

ぴっ。と通話終了ボタンを押す。……ん?

「ちょっとぉおおお岩ちゃんなんで切っちゃうの!?」
「お前いい加減にしろよ。影山、悪いなケータイ」
「岩ちゃんのばかぁあああああ」

うるせぇ!と頭を殴られる。酷い酷いよ岩ちゃん。「お前、あとで立花にメールでも送ってやれ。電話はやだけどメールなら良いってよ」!?

「連絡…取っていいの?」
「影山からアドレス抜き取っておいて何言ってんだクズ川」
「…やった…」
「あの、俺もう帰っていいですか?」
「飛雄ちゃん!特別に1日練習に付き合ってあげよう!!」
「!!」





▽△▽


何度か連絡は取っているけど、結局結がこっちに顔を出す事はなかった。東京の何処に居るのか聞いても答えてくれないし、だから居場所が分からないって言うのは本当の話。

「国見も確か、立花に可愛がられてたな」
「そう、国見ちゃんずるい」
「本人嫌がってただろ」
「表面上だよ!岩ちゃん鈍感!」
「あ?」
「いだだだだ!頭鷲掴みやめてよ!」

なんだかんだで気に入られていた国見ちゃんに、結ちゃんの情報を簡単に教えるのは癪に障るんだ。


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東京バナナ、と飛雄のケータイに登録したのは結ちゃんです。

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