練習試合の翌日、学校は休みだが当然部活はある訳で

「くっにみちゃーん」
「げっ…及川さん」
「げっ、ってなに？」
「なんでもありません」

さっそく及川さんに絡まれた。憂鬱だ。部活が始まるまえに体力をごっそり持っていかれる気がする。

「結ちゃんと話できた？」
「ええ、おかげさまで。及川さん、孤爪先輩の連絡先知ってたんですね」

少し、声を荒げてしまったが及川さんはきょとんとした表情をした。

「孤爪って、ダレ？」
「え」

あの人、殆ど自分のこと喋ってないのか。



「ふーん、つまり結ちゃんのお母さんが再婚して孤爪になって1つ下の弟ができて、実は梟谷の生徒じゃなくて音駒の生徒で。しかもすごく仲が良さそうな男子が居て？ふーん、ふーん。俺全然知らなかったなぁ。ふーん」

この人かなり面倒だ。どーせ結ちゃんの通ってる学校すら知らないよーだ！といじけてしまった。俺だって、いじけたい。なんだかんだ及川さん、孤爪先輩の連絡先知っていたのだから。

「何やってるクソ及川」
「岩ちゃん普通に暴言言うのヤメテ！ねーねー！結ちゃんのお母さん再婚してたんだって！」
「は？」
「びっくりだよねー」
「…は、お前知らなかったのか？」
「えっ」
「再婚したから新しい父親がいる東京に引っ越したって…あと、学校は音駒高校だって」
「なんで岩ちゃんそんなこと知ってるの！？」
「結が普通にメールしてきたけど」
「なんで岩ちゃんには教えて俺には教えてくれなかったの結ちゃん！」
「クソ川だからな」「及川さんだからでしょ」
「そこでハモらないで！」

及川さんには教えなくても、岩泉さんには教えたのか…ふーん。少しだけ、もやもやした。というか俺だけなのか、連絡先知らなかったの。

「ふーんだ！及川さんだけ知らなかったからって調子に乗らないでよね！」
「誰と何を張り合ってるんだお前」
「さぁねー？ねー国見ちゃん」
「…俺を煽ってるんですか？」
「国見に張り合ったところでお前勝ち目無いだろ。お前結に嫌われてるんだから」
「岩ちゃんひどい！なんだかんだで及川さんと結ちゃん仲良いよ！」
「お前は頭が幸せだな」
「岩ちゃんマジでひどい…」

本当にめんどくさいなこの人は。





部活終わりにスマホを見ると、着信が一件。孤爪先輩だった。掛けなおすにも、及川さんが居るとかなり面倒事になるので孤爪先輩には申し訳ないが家に帰ってから電話を掛けなおすことにしよう。「お先失礼します、お疲れさまでしたー」と声を掛け急いで家へと変える。後ろから及川さんの声がしたような気がしたけど気のせいだ。
早々と家に帰り、部屋へと駆け込む。無造作に荷物を床に置きスマホを取りだした。

「もしもし、孤爪先輩？」
『あ、国見君お疲れー。部活中に電話かけてごめんねー』
「いえ、大丈夫です。孤爪先輩どうしました」
『んー？ちょっと話したいって思っただけだよ。あと、孤爪先輩って止めない？結先輩って呼んでたじゃん』
「あの時は、あれですよ。孤爪先輩って慣れなかったからで、今はもう」
『じゃあ結先輩と呼びなさい。先輩命令デス』
「…結先輩」
『ふふふ、よろしい。あーあ…今ここに国見君が居たら思いっきり抱きしめてなでなでしたいよ…』
「相変わらずですね、結先輩」

シャツが皺になるのも構わず、ベッドに寝っ転がる。電話だけど、こうやって普通に結先輩と話せる日が再び来るとは、思ってもみなかった。先輩が卒業してからの2年間、それと青城に入学してからの数カ月間、どんな想いでいたか、この人は知らないだろう。それこそ本当に

「死にそうでした」
『！？なに突然、吃驚した』
「あ、こっちの話です。気にしないでください」
『なになにー？結先輩不足で死にそうだったとかー？』
「え、そうですけど？」
『……あ、ああ、そうなの…へぇ…そう、なんだ…』

段々と小さくなる声。結先輩が照れるとか珍しい。いっそ俺が抱きしめたいくらいだ。

「先輩」
『なによぅー？』
「すきです」
『…はははは！』

え、なんで大爆笑？電話の向こうでヒーヒー笑う結先輩。微かに「結うるさい」という声が聞こえた。弟かな…。

『前さ、国見君私の弟は嫌って言ったじゃない？その時点で告白みたい、って思ったんだけど…いやーちゃんと言われちゃうとほんと』
「大爆笑は酷いです。せっかくの告白なのに」
『あははは！ごめんごめん、国見君ほんと可愛いなぁ』
「男にそれは、褒め言葉じゃないですからね」
『国見君が可愛いのが悪い』

酷い言いがかりである。未だに笑い続ける結先輩に色々諦めた。

『あー夜ごはんの時間だ。長々とごめんね。国見君も暇あらば電話しちゃっていいからねー』
「はい」
『国見君』
「はい？」
『私も、国見君の事好きだよ』
「は」

ぶつん、と電話は切られてしまった。どう意味の好きなのか、再び電話して聞ける勇気があるはずもなく。

「ていうか反則だろ…」

スマホを睨みつつ、熱くなる顔を只管枕に押し付けるだけだった。

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