「ねぇ八雲、虐められてるってどういうこと」
開口一番、笑顔で聞かれた。両手は徹に捕まれている、背は壁にぴったりと寄り添う。逃げられない。別に逃げるつもりはないけれど。しかしなんでばれてるんだろうか。
「飛雄ちゃんから聞いたよ、呼び出されて色々言われてるって」
「…飛雄余計なことを…」
「俺ってさ、頼りない?そんなことされてるなんて全く知らなかったよ…」
「そんなに気にする事じゃ…教科書破かれようがシャープペンへし折られようが別に」
「は!?そんなことされてたの!?」
しまった失言だった。飛雄がどの範囲までを喋ったのか分からないからどこまで言っていいのやら。
「俺、心配なんだよ」
「大丈夫だよ?」
「…実は性格が悪いって事と関係あり?」
…飛雄君や…なんてことを喋っているんだね…。「はははは、なんのことかなー?」なんておどけた様に言うと徹は顔を近づけてきた。若干、危ない体制である。他の人が見たら私襲われてるように見えるよ絶対。
「本当の話なんだ、猫かぶってるって」
「それは失礼な」
「飛雄ちゃんだけ知ってるなんて許せないなー。ね、俺の前では素で居てよ八雲」
おでことおでこがくっ付く。やばい、ここ学校だというのに。私の心臓ヤバイ、徹如きにドキドキさせられるとか。いや徹顔整い過ぎて確かにかっこいいのだけれどいやいやちょっと落ち着こう私。徹のペースに呑まれるな。
「あーやばい」
「な、なにが」
「キスしていい」
「駄目に決まってるでしょーがクソガキ」
はっ、と口を閉じる。が時すでに遅し、にこにこと笑う徹を目の前に苦笑い。
「素は口が悪い、と」
「私の事嫌いになった?」
「まっさか―!及川さんどんな八雲ちゃんも愛せちゃうから」
「うぇー」
「その反応はつらい」
というか離れろ、と徹の身体を押す。すると「やだよー!」と今度は容赦なく抱きついてきた。どうしよう。腹パンしていいかな。なんて考えているとぎゅっと力を込めて抱きつかれる。
「八雲が強気な性格だろうとも、やっぱり心配だからさ、話してよ」
「気にしなくていいよ」
「気にするってば」
「もうじきそれもなくなると思うから…」
「え?」
力が緩む瞬間
「うぐっ!?」
「ははは、セクハラ反対だよ」
「なぐ、らなくても…」
お腹を押さえて蹲る徹に「手は抜いてやったよ」と捨て台詞を吐きその場を後にする。あー危ない危ない。顔が熱すぎて死にそう。徹のくせに、チャラ男のくせに。あーもー…なんでこう、ドキドキしちゃうかな。
「とおるのばーか」
何かが吹っ切れた。
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