「飛雄は明日中学の入学式?」
「お―…」

まだあどけない可愛さを持つ、お隣さんの影山家の飛雄は明日中学の入学式のようだ。本人は隠しているつもりなのだろうが、嬉しそうな飛雄の顔に、私もつられて嬉しくなる。私が唯一心を許している可愛い可愛い幼馴染だ。表情が怖いとか性格が云々とか言われているみたいだけれど、私にとっては可愛い幼馴染で。むしろ何故彼の表情を読み取れないのか、不思議で仕方ない。意外と分かりやすいんだけどな。

「バレー部が強いって。すごく楽しみだ」
「不本意ながら、一年前にバレー部のお友達ができたんだ。よろしく伝えておくね」
「…八雲、いっつも俺に可愛い可愛いって言うけど女子じゃねーからな」
「流石に女子バレー部に入るとは思ってないけど」
「えっ」
「え?」
「友達って…女子じゃ」
「ないんだよ。残念なことに」

八雲の数少ない友達が…男…?と呟く飛雄にチョップを食らわす。いやまぁその通りなのだけれど。及川君は完全に誤算だったのだ。なんで、私なんかに興味を持ったのか。それを回避できなかった私の落ち度だ。

「友達じゃなくて、彼氏?」
「小学生がませたこと言うな。そして違う」
「明日から中学生だ!」
「今日はまだ小学生でしょ」
「卒業してる!」
「え…じゃあ今と飛雄って一体…なに?」
「……え」

…え?と本気で悩む飛雄バ可愛い。頭を撫でると「子供扱いするな!」と手を叩き落とされる。可愛い。
しかし…新学期かぁ…






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「あ!よかったー!篠宮ちゃんと同じクラスだ」

昇降口前に張り出されていたクラス表を見て、及川君は喜んでいた。「今年もよろしくね!」という言葉に曖昧に返事をした。ああ、中学最後の1年も及川君と同じクラスか…1年のころは殆ど関わり合いは無かったけど3連続同じクラス…今年もさよなら省エネ生活…

「3年にもなったし、八雲ちゃんって呼んでもいい?」
「…うん、いいよ」

3年にもなったし、の脈絡がわからん。やったー!と喜ぶ及川君に唯私は愛想笑いを浮かべる。いやー後ろに居る女子の視線が痛いし怖いし。未だに超大人しい文学少女を完璧に「演じている」私を誰か褒めてほしい。シャープペンが無くなったり、教科書が破られたりしててもキレない私をどうか褒めてほしい。女子の陰湿ないじめほんとやだ。くだらない。卒業前に一度本性を見せてやろうと心に誓っている。すごく楽しみ。

「そういえば、私の幼馴染がバレー部に入るの。よろしくね」
「え…おさな、なじみ…?」
「うん、影山飛雄って言うんだけど」
「へぇ…」

及川君の機嫌があからさまに悪くなった。なんで私、及川君に好かれてるのだろうか。ぼっちの「不思議ちゃん」なのに。及川君は、ただ面白そうな玩具(私)が目の前にあったから遊ぼうとしただけだと思っていたんだけど。自分で言うのもほんとなんだかなぁって思うけど、私人に好かれる人間じゃないと思うんだよね。ほんと、及川少年わからん。

「…ムスッとしてないで教室行こう」
「ムスッとなんてしてないよ」

してるよ明らかに。はいはい行きましょうねーと及川君の腕を引っ張って教室へと足を運ぶ。とりあえず平穏に1年過ごせますようにと無理なお願いを空に願った。


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