俺が篠宮八雲を好きになった理由は何だろうか。正直な話、あまり覚えていない。1年の時、俺と八雲は同じクラスだった、らしい。らしい、というのは1年の時彼女が同じクラスだったと岩ちゃんに聞いた、が俺は悔しい事に1年の頃彼女を認識したことが無かった。認識したのは2年に上がった後のこと。いつも、隅っこの席だった。一人ポツンと机に向かい、何時も本を読んでいた。誰も彼も彼女を認識しない。俺もそうだった、はずだった。本当に偶然だったのだ。放課後、夕暮れ時。少し早めに終わった部活、俺は教室に忘れ物をしたことを思い出し、急いで教室に取りに行ったのだ。そこで、彼女が一人、夕日に当てられきらきらと光っていた。凄く、綺麗だったことを覚えている。

「―――えっと、及川君…だっけ…ごめん、よく覚えてないんだけど」
「え、ああ。あってるよ」
「忘れ物?」
「そうそう。君は?」
「どうだっていいでしょ」

酷く冷たい声色だった。確かな拒絶だった。踏み込んでくるなという警告だった。その時の会話を、俺はあまり覚えていない。ただその時、彼女の虫の居所が悪かったらしい。色々罵倒された後「あなたに興味が無いので」それではさようなら。と教室を出て行った彼女に酷く狼狽した。初めてなのだ、女子にああいう反応をされたのは。それ以降、俺は彼女を眼で追うようになった。周りに耳を傾けるようになった。「不思議ちゃん」と呼ばれる嫌味を含んだ言葉。確かに彼女は自分にとって不思議な存在他成らなかった。でもまわりの人間が言っているそれではなく、もっと違う―――。そしたらいつの間にか話しかけていたのだ。しかも彼女は、あの放課後の記憶を綺麗さっぱり削除していたらしい。まぁ、ちょうどよかった。これで本当の「はじめまして」だ


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