思い出しただけで恥ずかしい、なんかぽろっと言っちゃったんだ。徹があまりにも私を愛おしそうな目で見るもんだから吹っ切れてしまった。完全に徹に絆された。認めてしまうと、徹が愛おしくて仕方なかった。ああ、もうほんとどうしよう。

「ねぇ、篠宮さん」

ちょっと考え事してるので、後にしてもらえないかな…。女子数人を目の前に、私は溜め息を吐いた。










引きずられるように校舎裏へと連れて行かれる。ドンっと背中に衝撃。普通に痛かった。見るからにリンチされる図である。

「あんたいい加減にしてくんない?及川君にべたべたするんじゃねーよ」
「いい迷惑よ、私たちにも及川君にも」

「ははは」

「はぁ?何笑ってんの?頭おかしいんじゃない?ああ、でも不思議ちゃんだから仕方ないよね。本当キモイ」

本当に面白い。本当に――面白いほどつまらない茶番だなぁ。と笑いがこみあげてくる。もう笑いを堪えることもしない。吹っ切れてしまった私には、この茶番は途轍もなく鬱陶しかった。

「いい加減笑ってんじゃ――」
「五月蠅いな。いい加減にすんのはお前らの方だっつーのクソガキが」

は?と女子たちの動きが止まる。まさか大人しい大人しい不思議ちゃんが口答えしようとは夢にも思わなかったのだろう。

リーダー格の女子の胸ぐらをつかんで壁に叩きつける。「痛っ!」という声は無視。これさっきあんたにやられたんだっつーの。ガっ、と壁を蹴りつける。私の顔を見るなり、女子の顔が恐怖に染まる。いま私どんな表情してるんだろう。それでも負けじと私を睨みつける。私は笑う。中学生の女子如きに怯えるほど、私は乙女じゃないので。

「えーっと、何さんだっけ?私貴方に興味皆無だから全然名前とか知らないんだけどさ、どうでもいいかそんなこと。えーっとなんだっけ?「及川君が迷惑する」だっけ?あんたら徹の何を知ってるんだっつーの。あんたらの感情ぶつけるのはまぁ良いとして、そこに徹の名前出さないでくれる?」
「は――――あんたより」
「私より知ってる?はは、本当馬っ鹿じゃないの。あんたらより私の方が徹の事分かってるに決まってるでしょ」
「な、何さまのつもりよ!」
「そのままそっくりお返しするわ。大人しそうな女子1人に5人で寄って集ってあーだこーだ。本当くっだらないわ。くだらないからそのまま放置してたんだけどさ、いい加減飽きちゃったから。もう私にちょっかい出すの止めてくれない?ていうかさ――私、徹の事好きだし、徹も私の事好きなんだよね」

あ。とか細い声が聞こえた。ん?と思い後ろを振り返ると、固まるリーダー以外の女子、その奥には――

「お、おいかわくん」

笑顔の徹がそこに居た。

「いじめ現場みーっけ」

若干、私が苛めてるように見える構図なのですがそれは。徹の後ろに居た飛雄が「どうみても八雲が苛めてるようにしか見えない」と笑っていた。ええ、ごもっとも。リーダー格女子を壁に追い込んで逃げないように足で行く手を阻んでるからね。どうみても私が悪者です。

「八雲の教科書とか、文房具とか壊したのって君たち?」
「……え、あの…ちが」
「何を言っても肯定と捉えるよ。でも、ありがとう」
「え?」
「だって今の八雲めちゃくちゃ生き生きしてるんだもん」

ぶはっ!と飛雄が爆笑し始めた。空気読んで空気読んで。ちょっと黙ろうか、と飛雄に拳骨を食らわす徹。飛雄が悪いよ。

「八雲はあんまり気にしてないようだけど、俺からしてみたら話聞いただけでも切れそうになるし実際現場見ちゃうとねぇ…本当――腸わたが煮えくり返りそうになる」

完全なる無、だった。感情が一欠けらもない。ただ瞳には憎悪のみ。
ひっ。と女子生徒が小さく悲鳴をあげた。私もちょっとびくっとしてしまった。それくらい、徹が怖かった。怒らせたらいけない人間だな、と頭にインプットしておいた。

「ねぇ、他の子たちにも言っておいてくれる?俺さ、バレーの練習の時キーキー五月蠅い声で応援されるの、大嫌いだったんだよね」
「あ、あ…ごめんなさい!し、失礼します!!!」

脱兎のごとく逃げる女子生徒たち。徹の豹変にちょっと呆然としていた私の間をスッと抜けてリーダーの女子も逃げて行った。「あー!あと八雲にももう手を出さないでねー」ばいばーいと笑顔で手を振る徹。

「…生きてる?飛雄」
「笑い過ぎて死にそう」

楽しそうでなによりだよ


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