眼前には夜久君の顔、壁ドン…ではなく床ドン…わざわざドン付けなくてもいいのか。今現在私は夜久君に押し倒されている。私たち以外誰も居ない部室。
私がベタに転んで、夜久君が掴もうとして一緒に倒れ込んだ…という話ではなく、たまたま部室前を通った私は夜久君に部室に引きずりこまれ、押し倒されたという状況である。冷静分析終了。
さて、この後どうする。両手首は完全に夜久君の手によって床に縫われた状態。夜久君、無表情。何これ怖い。というかなんなのこの状況。私は混乱する。「なまえ」と夜久君は私の名前を呼ぶ。…下の名前呼ばれるほど、親しかったっけ?

「あー…」
「な、なに…どうしたの夜久君」

頭がゆらゆらと揺れる。…あれ、もしかして具合が悪いのかな?それなら、説明が…つかないこともない?「大丈夫?」と聞くと「……だめかも」と返答。いやいやそれマズイよね?保健室行こうと提案する。

「…保健室?あ、あー…?」
「夜久君ほんとに大丈夫」
「いや、大丈夫じゃないけど。そういう大丈夫じゃない、じゃないから」

ごめんもう意味がわからない。大丈夫じゃないけど大丈夫?そういう大丈夫じゃない?うん、ちょっとわけがわからない。んんん?と首を傾げる私に「今のところ、何にも考えるな」なんて言われた。なにも、考えるなって何?なんて考えていると夜久君の顔が近付く。あ、夜久君が倒れこんでくる?他のバレー部員より少し身体が小さいとはいえ、夜久君だって男の子なのだ、倒れ込んできたら多分私潰れる。
と、そんな不安は無意味だった。近付いたのは、顔だけだった。

「んむ!?」

キスをされた。は!?と混乱する中、何度も何度も、唇を落とす。呆気にとられて、薄く口を開いてしまった。待ってましたと言わんばかりに舌が割って入る。いや、ちょっと待って。何これ。

「…は、…ふぅ…」

息が漏れる。ぐいぐいと夜久君の身体を押すがまるでびくともしない。ぐるぐると頭が回る。え、と…?
漸く離れた唇。銀の糸が途中でぷつんと切れる。それを見た瞬間、ぶわっと身体が熱くなった。反応が遅いと言われても仕方がない。でも、正常に頭は回らなかったのだ。

「ちょ、え、夜久君?」
「俺なまえめちゃくちゃ好き」
「…は、?」

夜久君の指が、唇を拭った。順番、逆じゃない!?と心の中で叫ぶ。実際の私はぱくぱくと、音もなく口を開くだけだった。

「なんか好き過ぎて死にそう」
「そ、そんな面と向かって言われると…」
「わるい、爆発した」
「爆発って」
「あー、だめだ。頭まわんねぇ…」

こつん、とおでことおでこがぶつかった。…?なんか、夜久君異常に、熱くない?夜久君ちょっと、手を失礼。いつ離れたかもわからない手を、夜久君のおでこに当てる。うん、確実に熱がある。

「夜久君、熱あるよ。やっぱり保健室行こう」
「保健室よりここのがいい」
「…ちょっと、言ってる意味が理解しかねるよ」
「んじゃあ別に理解しなくていいよ」

唇が、首を掠める。ぞくり、背筋が凍る。これは多分よろしくない。舌が、首を這う。段々と、下へ下へ。鎖骨あたりを吸われる。

「ひ…っ」
「は、は…かわいい」

この人だれ…私の知っている夜久君ではない。ぎらつく目の夜久君に、私は目を逸らした。

しらない、いやしっている。私はこの目を知っている。夜久君がボールを追いかける目と同じなんだ。意地でも落とすまいと必死に食らいつく、獣のような目。

「(それは…執着?)」
「…なんか、言った?」
「、なんでも」

ストンと、熱が籠っていた筈の身体が冷えていった。いや、だって…なんで、私?私は、夜久君に執着されるようなことは、していない。「なまえ、なまえ」と夜久君は私の名を呼ぶ。夜久君の手が、制服を掴む。冷静に、それを見る。

「夜久君」
「なに」
「なんで?」
「は?」
「なんで、わたし?」

夜久が身体を起こし、私の顔を見た。瞬間、「あ」と声をあげる。あ、もどった。サァっと顔色を悪くする夜久君を冷静に見る。

「わ、悪いみょうじ」
「夜久君」

夜久君の胸倉を掴む。予測していなかった私の行動に、夜久君の身体が私の上に倒れ込む。思わず「ぐぇっ」と言ってしまった。やっぱり以外と重かった。えいっと、夜久君の身体を自分の横にずらす。二人で床に寝っ転がる。向き合う。なにやってるんだろ、私たち。

「ね」
「みょうじ…?」
「私、夜久君に執着されるような人間じゃないよ?」

夜久君に、好かれる理由なんて、何かあったかな。バレー部のマネではあるけど、クラスも違うし、夜久君とそんなに会話した記憶もない。夜久君の目をじっとみる。数秒、夜久君は口を開いた。夜久君の手が、頬を掠める。

「俺、知ってるんだからな。部活終わって、丁寧に体育館のモップ掛けしたり、ボール一個一個丁寧に磨いてたりしてるの。態々、俺らが全員帰ってから、体育館に戻ってそーいうのやってるの」
「え、」
「全部ぜんぶ、知ってるんだからな」

ばれない様に、してたのにな。いつからバレてたんだろう。「ひとりで遅くまでそういうことしてるのは、あんまり感心しないけど」と夜久君が笑う。


「なんか、愛おしいって思うだろ?」
「どうだろう」
「思ったんだよ。そうやって、ずっと見てたら」
「そ、そう…」

はは、照れてる。なんて言う夜久君に体温が上がる。

「なんか頭ぼーっとしてやっちゃいけないことしたんだけどさ」
「うん」
「俺めちゃくちゃなまえの事好き」
「…そ、そう…」

夜久君が、私の身体を抱き寄せる。あつい、…あつい?

「ちょ、夜久君熱がひど」
「ん、大丈夫大丈夫」
「大丈夫じゃな――痛、」

ガリっと首筋を噛まれた。マズイ、熱でまた理性が飛んでるらしい。全くもって大丈夫じゃない。夜久君も、私も。

「ほんとすき」

夜久君の目をみて私は諦める。ああもう
獣見たいな夜久君の目を、じっと見つめた。



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りつさまリクエストの肉食系夜久くんでした。
がっつり…ではない気がしますが肉食系でした。楽しかったです!首筋噛むとか大好物です。おいしいですもぐもぐ。ちっさいのに肉食って良いですよね。
あかーし君か夜久君ということだったのですが、夜久君にさせていただきました!
りつさまリクエストありがとうございました!

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