「本条さん、さっきの人はお友達ですか?」
「え、」

友達か、と問われて私は迷う。友達…友達でいいのかしら。私と白布君の関係は。私からすれば白布君は一番信頼できる人間なのだけれど、私という人間は彼の瞳にどう映っているのだろうか。

「友達…なのかしらね…?」

まともに友人なんて作った事がない私が、友の定義などわかるはずもなくただ首を傾げるだけだ。それをどう捉えたのか、歪曲して「あ、彼氏ですか…そうですか」なんて一人で納得し始めた天童さんに否定の言葉を掛けた。

「私なんてつまらない人間だもの。彼氏彼女の関係なんて勘違いされたら、彼が可哀想だわ」
「そ、そんなことないですよ。私、本条さんと仲良く…なりたくて…。だから、なんだか仲が良さそうなさっきの人が…羨ましくて…」
「え?」

今まで出したことのない様な素っ頓狂な声をあげてしまった。きょとんとする私を真っ直ぐと見る天童さんの目が、なんだか鋭くて、私は後ずさりをした。

「天童さん?」
「…羨ましくて、ずるいです」

頬を膨らませる小鳥遊さんは、可愛らしくてとても女の子っぽかった。嫉妬…なのだろうか、その対象が私という点においてはまったく理解は出来ないけれど。

「、いいです。私、高校に上がったら頑張ろうって思っていたので」
「よくわからないけど、頑張って?」
「…がんばります」

よくわからないけど。取り敢えず、当たり障りのない言葉を口に出した。ぎゅっと手を握り締め「がんばります」と言う天童さんに若干不安を覚えつつ、私たちはクラス割がある玄関前へと足を進めた。





▽△▽



「まぁ、中等部からあがって来た特進メンバーはお馴染みだろう。高等部からクラス上がりや外部新入生も居るわけだし、心機一転みんなで仲良くな」

担任の教師が、にこやかに言う。まぁ「当たり」かしらね。一部の中等部からの生徒は、ほっと息を吐いていた。バレーの見学に行った時遭遇したあんな人間が、割と多かったりする。そういう人間は、在校生、外部新入生の両方に嫌われるのだ。当本人はまったく気づいていないようなのだが。
ま、私はどっちだっていい。どちらにしたって「同じ事」なのだから。

「それと、有名人の本条琴葉もこのクラスだ。本条」
「はい」
「中等部最後のテストも全教科満点だったぞ、流石だな。みんなも、本条を見習って勉学に励めよー!」

はぁ、小さく溜息を吐いた。いつもいつも、ほんと変わらないわね。ざわつくクラス。「そりゃあ本条さんだもんな、当たり前だ」なんて感心する声。嫉妬の声が上がらないのが、不幸中の幸いと言うものだ。

まったく、ほんとうにいやなばしょ。

窓の外を見上げる。早く、終わらないかしら。連絡事項を読み上げる教師の言葉を右から左へと聞き流す。

「あー…あと、今年他のクラスだが、凄い奴も入ってきているらしい。本来なら、特進なんだが…バレー部に入りたいって奴でな」

ぴくり、私は反応した。他のクラス、外部からの新入生、バレー部。

「全教科平均90点以上だそうだ。特進に欲しかったよなぁ…本人には「バレーするために必死に勉強したんで」なんて断固拒否されて…まったく惜しい事を…」

小さく、笑みを零した。ほんと、残念。白布君、同じクラスだったらよかったのに。まぁ、無理よね。ほんと残念。口元を隠す。うん、ちょっとだけ気分が良くなったわ。

早く放課後にならないかしら。彼のクラス、担任に聞いたらすぐ教えてくれるでしょうし。白布君が部活に行く前に捕まえなきゃね。

すっかり気分が良くなった私を、複雑そうな顔で見ている「誰か」に気づくはずはなかった。




▽△▽



「こんにちは、白布君」
「本条?なんでクラス」
「聞いたの。名前は出てないけど有名人よ白布君。入試のテスト、全て90点台」
「そういう本条は満点なんだろ。なんか担任が自慢してた」

自分のクラスの生徒でもないのに、よくもまぁ私の名前が出せること。他のクラスも似たようなものだろう。もう慣れた。どうでもいい、そう、今はどうだっていい。

「残念、白布君と同じクラスになれなくて」
「バレーやって勉強やっては結構つらい。受験勉強だって、バレー休んでたからああやって打ち込めたんだし。まぁ半分は本条のお陰だけど」
「何もしてないわよ、私」
「解らない問題、塾長に聞いても渋い顔されたんだぜ?本条に聞いたらすらすら問題解いていくし」
「たまたまでしょう?」
「そのたまたまに救われてたよ、ほんとに」

他人からお礼を言われたところで、ああそう。なんて冷たく思っていたけど、白布君に言われると、ストンと心に落ちる。ああ、もう本当に。

「私、白布君のそういう真っ直ぐなところ、好きよ」

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