「いいですか、出来ればバレー止めろと言いたいくらいですがそれはいくらなんでも酷なので、取りあえず若利さんに近づかないでください」
「意味がわからない。それに俺はバレーを、牛島さんにトス上げるためにこの学校に入ったんだ。牛島さんに近づくなって頼みは断固お断りだ」
「は?若利さん大好き人間ですか?あんな脳筋どこが良いのですか!それより断然本条さんでしょう!?」

今の話の流れでなんで本条が出てきたのか理解できない。胸ぐら捕まれて揺さぶられる身体。なにこいつ馬鹿力。なんかもう、今日は昼飯抜きかな、なんてぼーっと考えていると廊下の向こうから天童先輩が歩いてきた。俺達を見るなり「あー…」と困った顔をした。

「はいはーい、栞ちょっと白布君から手を離そうねー」
「は、ちょ…お兄ちゃん邪魔しないでよ」
「はいはいはいはい、あとでぜーんぶ聞くから」

はい、離す。と捕まれていた制服と天童栞の手が離れた。助かった。「天童先輩ありがとうございます」とお辞儀をすると「いいのいいの!それより先輩なんてかたっ苦しい呼び方じゃなくてもっと砕けていいよ?」なんて言われた。砕け…?天童さんと呼べばいいのだろうか。


「ちょっと!私を無視しないでよ!」
「ごめんねーうちの妹、女王様…本条さん大好き人間だからさぁ」

前も言っていたけど、女王様とは何なのだろうか。今ここで聞くのは面倒なことになりそうだからあとで聞こう。それより…


「栞、白布君に何言ったの?」
「若利さんに近づくなって言っただけ」
「…なにそれ?」
「もう!なんでこう男は鈍感なの!!」

そう地団駄を踏まれても困る。「もー意味わかんないよ栞ー」という天童さんの脛に天童栞の蹴りが入った。あ、死んだ。


「…っ!?……っ」
「ちょ、天童さん大丈夫ですか」
「天童さんって呼ばないでくれる!?」
「いやアンタじゃないから」

蹲る天童さんの背中をさする俺(意味無いけど)、俺達を見下ろす(見下す)天童栞。そして俺らに関わらないようにと廊下の隅を通り過ぎる生徒たち。目を合わせようともしない。俺ももう昼買いに行ってさっさと消えたい。復活した天童さんがバッっと立ち上がる。

「あぶないでしょーが!栞!」
「邪魔したお兄ちゃんが悪いよ?まだやるんなら蹴りあげるけど?」
「…白布君、こんな妹だけどよろしくね」
「え、無理です」

結局なんの話だったのだろうか。天童栞の頭を鷲掴みし「もう白布君栞に付き合ってやんなくていいよー、ほら行きなー」という天童さんの言葉に甘えて、俺はその場を後にした。「お兄ちゃん、覚悟しなさい」と蹴りあげられた天童さんの姿を最後、俺は色々考えるのを放棄した。




▽△▽



「天童さん」
「…白布君、今日はお疲れ様…」

まだ部活前だというのに天童さんはやつれていた。「…お疲れ様です」と俺は頭を下げる。「はははは…はぁ……」と溜息を吐く天童さんに俺は何も言えない。

「栞最近機嫌悪いから…昨日なんか夜、生たまご投げつけられた。更に晩御飯は嫌がらせの様なオムライス。まさかオムライスのご飯が白米とか…」

地味かつとんでもない嫌がらせ…それは最早ただの白米…。


「まぁ栞の言い分も面白んだけどねぇ」
「はぁ…」
「女王様とかなり仲良いでしょ?白布君」
「…その、女王様ってなんですか」

ん?ああ、外部からの入学じゃ知らないか。と納得の天童さん。


「いやぁ、簡単な話。ウチの学校始まって以来の天才、女王様降臨」
「…本条が頭良いって話ですか」
「そんな言葉一つで答えられるならよかったよね。天才って怖いよねぇ。中等部入学以降本条琴葉は一度も満点以外を取ったことがないって噂。噂って言うか事実なんだけど」

本条、そんなにすごいのか。と息を漏らす。「こんなの、ただ暗記してちょっと考えれば誰だって答えられるじゃない」なんてある意味馬鹿な事を言っていたけれど。そんな簡単に出来るものなら、誰だって天才になれている。まぁその代わり、運動神経は破滅的ではあるけど。

「本条さん、中等部の時はツンケンしてて女王様って言葉がぴったりの子だったんだけどね。栞曰く、3年の冬ごろから雰囲気が柔らかくなったって話」
「……」
「冬ごろ、なにがあったんだろーねー?ねぇ、白布君」
「…さぁ?」

えー、つまんないの。と天童さんは面白そうに笑った。俺は顔を背ける。にやにや、俺の背中を突く天童さんに「早く部活行きますよ」と思いっ切り叩いてやった。



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先輩思いっ切り叩く白布君(照れ隠し)

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