京治君はおおかみだ。おおかみおとこだ。それを付き合ってから2週間後に痛感させられた。「いいかな」なんて聞く意味のない問い掛をし、私が口を開く前に(まぁ喋らないんだけど)口を塞がれる。ここのところ毎日だ。

「ふ…、」

声が漏れる。普段喋らないくせになんでこんな意図的に出した事のない声が漏れるのでしょうか。その声を聞くと。京治君は舌をねじ込ませ、絡ませる。うわぁ、状況を冷静に考えてみると恥ずかしくて死んでしまう。けど、慣れてしまっている自分が恐ろしく怖い。暫くすると、満足したのか私を抱きしめ、ぽんぽんと頭を撫でるのだ。

「かわいい、ほんとかわいい」

この人、恥ずかしくないのだろうか。
誰だよほんと、無口無表情観賞用イケメン男子とか言い出した人は。もう世界最終兵器だよこの人。最後に名残惜しそうに額に口づけをし、京治君は部活へ行ってしまった。イケメンの行動は本当に恐ろしい。
付き合って数日の頃は、京治君って結構表情コロコロ変わるなぁ。程度だったんだけど今となってはもう…自分で言うのもあれだけど、私に対しての甘やかしがやばい。でろでろです。自分で自分がわからなくなるくらいにもう…


「バカップルね」
「!?」
「こんにちは烏丸さん。最近貴方の話題で持ち切りよ」

羽川さ…ではなく羽場さんがそこにいた。幸薄男より全然委員長っぽい人だ。なんでも知ってる系文学風美少女。今日も麗しゅうです。幸薄男じゃなくて羽場さんがクラス委員長をやればよかったと思います、ハイ。あんな幸薄男じゃなくて。そんな彼女は新聞部。新聞部とは何をする部なのだろう…新聞作る部活?
(彼女はまだ知らない、某物語の羽川似委員長気質系女子が、ネタ大好きパパラッチだという事を)



「しあわせかしら」

綺麗に笑う羽場さん。惚れる…じゃなかった。しあわせ…しあわせ…。こくり、頷いた。最初は押し流されからのお付き合いだったけど、2日目には自覚して3日目にはちゃんとしたお付き合いを始めた。私、京治の事ちゃんと好き。

「ふふ、烏丸さんが可愛らしい女の子っていうのは知ってたけど…赤葦君がまさかあんな肉食系男子だとは思ってなかったなぁ」

…!?そ、そういえばさっきの場面見られてた!?にこにこと笑う羽場さん…の手には一眼レフのカメラ。ちょ、なんですかそのお高そうなカメラは。「あ、新聞には載せないから安心して」載せる!?載せない!?なんの話!?
にこにこと笑う羽場さんが、なにやら閻魔さまに見えました。あれ、敵に回しちゃいけない人種のお方ですか…?
ぽん、と手に封筒を持たされた。
あ、察し。

「プレゼント」

最後に「はぁと」が付いた気がした。開けたら死ぬやつだこれ。「じゃあね烏丸さん、それ、赤葦君にも見せてあげてね」と羽場さんは去って行った。京治君に見せたら多分死ぬ(私が)。この封筒は見なかった事にして私はバッグを肩に掛け、外へと向かう。








「ねぇ弥生、これなに?」

数日経った日の事、すっかり忘れていた頃に教科書の間からあの封筒が出てきた。京治君は不思議そうに封筒を見る。

「ラブレターとかじゃないよね」

ないよ、それは絶対ないよ。そう眼で語ると「弥生可愛いから」なんて言われた。それを言うのは京治君くらいだよ。先日羽場さんにも言われたけども。

「ラブレターじゃないなら何?すごくこれ気になる」

羽場さん、何か呪いでも掛けましたか。なんで京治君そんなに突っ掛かってくるのですか。がしっと封筒を掴む。中身は見てないけど大体分かる。駄目。これ見たら死ぬ。ある意味呪いの封筒です。

「弥生?」
「京治君、これだめ」
「なんで?」
「なんでも」

ぐぐぐぐぐ、と引っ張り合い。そのまま切れてしまえ、びりっと、びりっと!そう上手くは行かず、地味な戦いが続く。ぐぬぬ、これは渡さないぞ…。なんて思っていたら京治君の顔が近付いてきた。あ、反則。封筒を掴んでいない方の手で頭を押さえられる。丸かじり。わかってはいても、吃驚してしまいそのまま封筒から手を離した。そのまま口まで放してくれれば良いものを、そのまま離れず。息が絶え絶えになる頃、漸く口が離された。

「反則」
「なんとでも」

封筒の口を開ける。あー…私は顔を手で覆った。あーあー!私知らない。見えない何も見えない。


「弥生…これ」

ぺろり、写真を向けられる。
みせないでよ、やめて。

「隠し撮り?」
「隠し撮り、だけど…撮った人は知ってる」
「許可は?」
「するわけないよ」
「…ふーん、貰っていい?」
「捨てて、びりびりに破いて捨てて」
「勿体ないから貰うよ」
「聞いて」

奪い返そうとするけど京治君はサッと写真をポケットに仕舞った。

「…諦める、けど、人に見せないでね」
「真っ赤になってる弥生の顔は誰にも見せる気無いから」

見られてます、その写真を撮った張本人は確実に見ています。

「ちなみにこれ取ったの誰?」
「言わない」

言ったら最後な気がする(私が)。心底残念そうにする京治君を見て、少しだけ頭が痛くなった。




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