金田一君に引き摺られるように体育館へと向かう。「どうしたの?」と聞くと「俺もわかんねーけど国見が体育館に来いって」と答えた。体育館に着くと後輩バレー部員が練習をしていた。「国見いねーなー」と金田一君が体育館を見渡す。私も視線をあちこち向けていたら、ふと一人の部員と目が合った。あ、あの人は。金田一君も気付いたようで「あー…」と声を出す。すると、ズカズカとこちらへ向かってきた。私の目の前で、ぴたりと歩みを止める。条件反射で、金田一君の陰に隠れる。

「あ、あの…高槻さん…」
「、はい」
「あの時は、本当にすいませんでした!」

え、と私は呆然とする。「ほんと、あんときは苛々してて…高槻さん全然悪くないのに、八つ当たりしてしまって…本当にすいませんでした!」と頭を下げるその人に「ああああ頭上げてください!気にしてないんで頭上げてください!!」と必死に言うばかりだった。ああ、他の人の視線が痛い。



「今日は俺、影山に勝ってギャフンと言わせてやりますから」
「…?」

その言葉に、金田一君と顔を見合わせ首を傾げた。どういう事なのだろうか。飛雄に勝つ…?私たちのその様子に、目の前の人も首を傾げる。すると後ろから「ごめん、遅れた」と国見君の声がした。そこには国見君、…と首根っこ捕まれた飛雄が。


「俺と影山と金田一のチームで試合するよ」

話が見えないのに、金田一君は「おー」と返事をした。「高槻はそこで試合見てて」と言う国見君の言葉に呆然と頷くだけだった。









3対3の先に1セット取った方が勝ち、というミニゲームが始まった。相手チームには先程私に謝った彼が居る。
相手サーブから国見君がボールをあげる、それを飛雄がー…あんまり、彼のプレースタイルは変わっていなかった。それはそうだ、私はまだ何も出来ていない。早いトスに慌てて合わせるように金田一君が打つ。国見君が口を開いた。


「影山、お前もっと金田一見てトス上げろよ。無茶振り直さないとまた高校入っても同じ事繰り返すだけだぞ」
「な――」
「お前コントロールばっちりで上手いんだから、金田一の打ちやすいトス上げて」

ぴたり、影山の動きが止まる。見てはいけないものを見てしまったかのような表情だ。飛雄暫く上手いとかそんなこと言われてなかったから、びっくりしているのかな。時間を置いて「…お、おう」と影山が返事をした。少し、ほんの少しだけ飛雄の顔つきが変わった気がした。

歯車が、回り始めた。
1発目の無茶振りトスから、徐々に徐々に金田一君の手に吸い込まれるようなトスへ。これには金田一君も吃驚したようだ。「お前、人に合わせられるんなら初めから合わせろよ」と小声で文句を言っているのが聞こえた。それを聞いて、少し気まずそうにする飛雄。そして、なんとなく満足そうな国見君の表情。なんだろう、すごく、いいなぁ。
16-9、飛雄達が優勢。国見君のサーブ。気合を上げるように、相手チームが声を上げる。

「お前らー!影山に勝つぞォ!!それに、高槻さんが見てるんだからダサいところは――」

バシンっ!と国見君のサーブが…相手顔面に命中…。私が当たったわけじゃないのに思わずひゃっ、と顔を押えてしまった。

「あ、ごめん。調子乗らないで?」
「お前いくらなんでも心狭すぎだろ」
「金田一うるさい。影山、次俺にトス頂戴。金田一より気持ち低めで」
「お、おう、わかった」
「打ちにくいトスあげたら今度は影山の顔面狙うからな」
「!?」
「国見1セットだけだからって気合入りすぎじゃね…お前ほんとに国見かよ…」
「先に金田一が食らう?」
「勘弁してくれ!」

ほら、次行くぞ。と国見君と金田一君が飛雄の背中を叩く。「おう!」と楽しそうに返事をする。そんな姿を見て、自然と笑みが零れた。



結果25-13
試合を見てた部員たちは、やっぱり影山すげー、金田一さんうめーなぁ、国見さんやる気出すとああなのか…とざわついていた。私は駆け出し3人のもとへ。

「3人ともお疲れ様」
「ふー…こんなに影山のトス打つの初めてだぞ…。あと国見がこんなにやる気出したのも」
「…疲れた、もう高校まで絶対バレーしない」
「おい」
「冗談だよ……多分」

楽しそうに話す2人。飛雄は、じっと2人を見つめていた。その様子に気づいた2人は「なんだよ、じっと見て」と声を掛ける。ぱくぱくと金魚のように口を開くが、声は出ていなかった。変な奴、と2人は笑う。

「ねぇ、飛雄」

なんだよ、と飛雄と目が合う。こうやって、飛雄の目を見て話すのは久しぶりな気がする。笑みが零れる。結局私、飛雄に何もしてあげられなかったね。でも、本当に良かった。もう、心配事は無くなったね。

「楽しかった?」
「…今までで、一番楽しかった」


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